コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] E.T.(1982/米)

この作品公開当時は主演のヘンリー=トーマスが「名子役」と言われたが、今になって観てみると、妹役のドリュー=バリモアの方が上手く見えてしまう。多分、あれから20年経って、どっちが役者として有名になったか、分かったからだと思う。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 自分でも意外なのだが、この作品、劇場はおろかビデオ、テレビでも今まで観ていなかった。これだけの超有名作品だけに、それなりに整ったところで観たいと言う思いもあったし、どうせ大したこと無かろう。と言う思いも多少はあった。そう言う意味で20周年記念特別版は本当にタイミング良かった。これでやっと観ることが出来たよ。

 それで拝見。

 実に上手い作品。それが正直な感想。スピルバーグは本当にカメラワークだけでメッセージ性を出すことが出来る。そう言う意味では彼は本当に映画を撮るため、監督になるために生まれてきたんじゃないかとさえ思う。職人芸を越えて、名人芸と言ってさえ良い。

 ストーリーについて、はあまり言うべき必要性を感じない。一言だけ言わせてもらえば、これはスピルバーグの確信犯的な作品。かなり巧妙に狙ってるぞ。

 まあ、とりあえず音楽やストーリーを剥ぎ取って、カメラワークとプロットだけでこの作品を見てみたい。するとサブリミナル的なものを含め、本当に様々なメッセージが込められていることに気付く。

 カメラ・ワークだけで見ると、最初から最後までに、撮り方が随分変化している。最初の部分のカメラ・ワークは極めて限定される、しかもホラー映画を思わせる、下から見上げる形での(あるいは地面を這う形での)のみの描写。それがエリオットの家庭を描くところで視野が多少広がる。この辺りから急にカメラ・ワークの自由度が高くなるのだが、それでもまだ足りず。そしてエリオットの家宅調査で見下げる視点が急に増え始め、そして最後にラストの町を縦横に駆けめぐる辺りのカメラ・ワークの自由度で最高潮となる。ここではカメラのテクニックは見事に全開状態。

 これは、視点と言うのが非常に大切にされているからだろう。冒頭での視点はまさにE.T.自身による視点に他ならない。あの身長の低さと、状況のわからなさで、カメラ・ワークは自然と限定されたものになっていく。そこでE.T.自身の不安な感情を示すようにホラーっぽく作られる。その後、エリオットの家が出ることによって、視点が今度は子供の視点に移る。身長こそE.T.と変わらないものの、勝手知ったる町の中にあって、彼の目は様々なものを有効に捉えるようになる。これでようやく普通に近い視点の撮り方になるのだが、身長が低い分、大人は常に見上げるように(場合によっては顔が見えないものとして)撮られている。そしてE.T.の死?を境に視点は大人(これはエリオットの母メアリーなのかも知れないけど、やっぱりキーズのものだろう)に変化している。ここにおいて本当の意味で普通のカメラ・ワークが出来るようになった。平面的な広がりから一気に立体的な広がりへと移行する視点変化は見事(ただ、いくつもの例外があることは認めるし、この考え自体が間違っている可能性もある)。複数の背後の視線を感じるカメラ・ワークなんて、普通考えつきもしない。母メアリーが妹のガーティに読み聞かせる「ピーター・パン」の話。ガーティが兄のマイケルに言う台詞「子供にしか見えないのよ」。その後、キーズがエリオットに「10歳の頃から待ってた」と言う台詞。それが視点の変化を表しているかのようで興味深い。

 E.T.自身の目からE.T.を見つめる→子供の目でE.T.を見る→大人の目でE.T.を見ると言う三段階の視点変化は、まさしく物語そのものの移行過程でもある。ホラー映画っぽさから、子供の夢とひたむきさへ、そして死を物理的なものとして見つめる大人の視線へと…そして最後。それら全てを超えて物語はファンタジックに展開する。ここにおいてカメラ・ワークは全ての視点を超えてカメラでしか実現し得ない場所で縦横無尽に撮影されることになる。抑えに抑えた後で一気に来る解放感。これは本当の快感である。

 結局、この作品の本当の良さ、そして巧さは、途中まで巧妙にわざと不自由なカメラ・ワークで撮っていた点にあると言っても良い。勿論解放感を盛り上げるジョン=ウィリアムズの音楽の素晴らしさもあってのことだが、局で一番盛り上がるところをぴったり合わせたのは名人芸だね。

 プロットの巧妙さについてもちょっと書こうと思ったけど、これに関してはcinecine団さんが実に素晴らしいコメントを書いておられるので、そっちにお任せする(書きたいことが既に書かれていて、とても悔しい(笑))。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (11 人)煽尼采[*] G31[*] Myurakz[*] スパルタのキツネ[*] パッチ[*] kiona peaceful*evening[*] アルシュ[*] かける[*] さいた peacefullife[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。