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[コメント] 笛吹川(1960/日)

「行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず」そんなことを思わされますね。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 徹底して農民の目から戦乱の世を見た作品で、静かに静かに流れる物語が展開していく。常に下の目から物事を見ようとする木下監督ならではの作品だろう。時にこう言った視点が鼻につくことはあるものの、本作はその点が素直に観られた。あるいは本作を観た時期が『七人の侍』(1954)を観た時期と重なっているからかも知れない。むしろ本作で補完出来たからこそ、『七人の侍』がいかに下からの視点を持っているのか。と言うことを感じさせられたのかも知れない。

 本作は笛吹川という川の「こちら側」と「向こう側」で話が展開する。「こちら側」に住む主人公の家(「主人公が住んでいる家」ではない。本作では「家」こそが主人公なのだから)は、ほとんど変化がない。ここではひねもす働き、子供を作る生活が脈々と続いていくのだが、「向こう側」では戦乱の世が展開し、その影響は「こちら側」にも波及。何も変わったことをしてない。何も悪いことをしていないのに、ただ川向こうの戦乱が否応なしにこちらの生活を脅かす。川向こうでは英雄的な物語が紡がれているのかも知れない。時折やってくる半蔵でそれが語られるが、例えどれだけそれが華々しくとも、「こちら側」には悪影響しかもたらさないのだ。

 ここには因果応報の物語展開はなく、ひたすら虐げられる家があるばかり。これこそが無常というものだ。

 本邦初のカラー映画『カルメン故郷に帰る』は既に9年前に公開されているため(ちなみにこれも木下監督作品)、カラー技術は既に確立しているのだが、敢えて本作はモノクロで作られているのも、その無常観からくるものなのだろう(木下恵介は雲にこだわりを持った監督と言われ、全ての作品で雲にも演技をさせようとしたと言われているが、人工的に“演技”させたのは本作だけだろう)。パートカラーもまた、毒々しい色遣いで不安を煽るために効果的に使われている。

(評価:★4)

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