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[コメント] シェルタリング・スカイ(1990/英)

説明を考えてる内にだらだらレビューは長くなってしまってます。ただ、キャラ、画面、音楽が不思議なハーモニーを持って観るものを圧倒する作品。と言っておきます。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 本作のストーリーを通して見ると、実際こう言っては悪いのだが、ありきたりな作品である。アフリカという大地から切り離して、例えばアメリカかヨーロッパの都市に置き換えてみると、何のことはない。夫に対する愛が見えなくなった妻が不倫と、夫の死を通じて、本当に夫を愛していることを知り、一人寂しく去っていく。これだけの作品である。

 つまり、極めて映画としてはありきたりの昼メロの世界に近いのだが、ベルトルッチ監督はそんなストーリーをもの凄いものに変えてしまった。

 これは色々な要因が複雑に絡み合って出来たもので、多分これは監督の思いも越えていたのではないかと思える。奇跡的なバランスを取った作品と言っても良い。

 正直、この作品を最初に観た時、「一体何が面白いんだ?」という感想でしかなかった。そりゃ流石ベルトルッチ。画面の美しさは群を抜いて素晴らしいが、それ以外単なる昼メロ。観た直後にレビュー書いてたら、多分これだけでコメントが終わってしまっただろう。しかし、時間が経ってくると、どんどん自分の中でその存在感が上がってきた。実に不思議な作品だ。

 勿論これは私の勝手な考えに過ぎないのだが、この不思議な魅力というものについて少々考えてみたい。

 先ずこの作品、題が変わってる。『The Sheltering Sky』。直訳してみると、「覆う天空」…一体なんの意味があるのか?冒頭でマルコビッチ扮するポートがその説明をするのだが、確か虚無とか、そう言ったことを意味すると言っていた。しかし、どうなんだろう?確かに砂漠は無慈悲だ。「シェルタリング・スカイ」の言葉を発するポート自身も確かに砂漠によって殺された。しかし、本当にそれだけか?彼らが岩場で愛し合う時に、彼らを見つめる空は無慈悲に見えたか?

 これは「自然」という意味なのかも知れない。惜しみなく与え、あらゆるものを奪う。その中で生きていく人間。それら巨大なテーマを打ち出していたのかも知れない。一人一人を包み込む、空。

 それで本作の見た目から分かる凄い部分だが、これは誰もが認めるだろうけど、先ず画面の美しさ。これに尽きるだろう。がけの上に立ち、雄大な砂漠を見下ろす二人。そしてその二人を容赦なく照らす太陽の対比。妙に白茶けた、活気があるのかないのか分からない町の風景。砂漠に一本だけ惹かれた線路で立ち往生する列車の姿。まるでそれらは一幅の絵のように画面に映えているのだが、この作品で思ったのは、映画とは、絵でなければ写真でもないと言うことだった。特にベルトルッチ監督の描く雄大な自然は、そこに人間を挿入することによって、初めて完成する。自然は動かない。動くのは人間のみである。監督が描いているのは、確かに人間なのだ。改めてそんなことを思わされる。だからこそ、写真でも絵でもなく、映画である必要があったのだろう。「人間が彩る動く絵」と言うべき映像を見せてくれていた。

 物語そのものは結構ぬるめで、初見は退屈さをどうしても感じたものなのだが、不思議な間の取り方と、キャラクタの魅力って奴が、後からじわじわ来る最大の要因なんだろう。

 だから最初よく分からなかったキットの行動も、実際はなにか明確な意志があったわけではないのだろう。むしろ状況の中で崩れ落ちそうになる自分の心を励まし続け、ついに壊れてしまった後で再び自分を取り戻す過程が描かれていたのかも知れない。砂漠が舞台と言うこともあって、まるで女性版の『アラビアのロレンス』(1962)のようにも思えてしまう。

 しかし、改めて思うがデブラ=ウィンガーは凄い。物語の流れの時々で全く違った魅力を演出して見せてる。最初の退廃的な気怠さを見せるシーン、砂漠の中で、夫との一時を過ごした時の充足感を見せるシーン、夫を看病してる時の焦ってるシーン、自暴自棄になって砂漠をさまようシーン、そしてブルカではなくターバンを巻き、男装してるシーン(一瞬本当に男に見えてしまった)、そして最後に去っていくシーン、実際それぞれが全く違った演技してる。凄かった。マルコヴィッチも器用な役者で、存在感あったし。

 それに坂本龍一によるスコアは流石と言えるもので、正直同じくベルトルッチ監督と組んだ『ラストエンペラー』(1987)の時よりもこっちの方が画面にはまっていた感じ。  正直、未だにこの作品の本当のコメントは出せないでいる(長々書いてたのは、自分の考えをまとめるためだったのだが…)。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ありたかずひろ[*] いくけん[*]

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