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[コメント] ミッドナイトクロス(1981/米)

まさにデ・パルマ以外の誰にも作れない作品として仕上がった作品です。この作品の評価こそが即ちデ・パルマの評価と言ってもいいくらい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 デ・パルマ監督お得意のサスペンス・ミステリーで、特に70年代後半から好んでこの手の作品を作るようになっていった。ただデ・パルマ監督の作るミステリー作品は、既にこの時代から物語や設定云々ではなく、演出だけで見せる作品になってしまっている(それが今に至るもずーっと続いているのだから、それはそれで凄い事なのだが)。ここでもアクション部分の演出は「この人しかできない!」という見事なものだし、緩急取り混ぜた演出は素晴らしい。アクション映画の教科書にしたいくらいの良き出来だ。特にラストシーンの演出はベストショットだろう。あそこに花火とスローを持ってきて、その後に主人公の複雑な思いを託すなんて、小憎らしいほどにエッジが効いてる。ラストシーンに関しては特筆すべき作品だ。

 それに本作はアイディアに関してはかなり面白い。主人公が音響という特殊な職業にいるために、事件の真相に迫れるとか、当時の映画業界の内幕および映画製作の裏側を見せるとか、色々貴重なものを与えてくれるし、特に現代の目で観ると、映画って本当に色々なところで進歩していると言うことも分かる。

 そう言う意味で本作は褒めたい作品でもあるのだが…残念なことに、デ・パルマ監督の悪さもモロに出てしまっていて、素直には楽しめない。

 まず物語の整合性が無茶苦茶すぎ。偶然の目撃から始まった物語が、偶然録音され、偶然写真に撮られ、偶然主人公が映画人で察しが異様に良いため、それらをきちんと推理でき、更に偶然警察ともつながりを持つ…ここまでくると、物語そのものをリアリティあるものに仕上げることを最初から放棄してるとしか思えない。しかも演出で光るところをつなぐ物語が中だるみしっぱなし。ラストシーンだけは良いんだけど、そこに至るまでに結構退屈だからなあ。

 後、どんだけ好きなんだ?というほどにヒッチコック的演出とか設定とかを次々持ってきてるのも、流石にちょっと引く。デ・パルマは大抵の作品にヒッチコックの思い入れを出しているけど、本作は特にそれが出過ぎてるよ。ヒロインは全部悪女になってしまうという悪い癖もモロだったし。

 演出のみで考えたら最高の作品なので、デ・パルマのファンであれば文句なく受け入れられる作品だろう。逆に言えば、本作の評価如何でデ・パルマを好きになれるかどうかが分かる。

(評価:★3)

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