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[コメント] セント・オブ・ウーマン 夢の香り(1992/米)

年齢を重ねると味わいがどんどん増していく。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 キャラ描写に関してはほぼパチーノに尽きる。肉体的には枯れかけていながら、異様な色気を出すパチーノの圧倒的存在感が最高で、本作のキャラ描写に関しては申し分なし。

 一方、ストーリーに関して言えば、実はリアルタイムで本作を観た時は全く面白いと思えなかった。勝手なことばかり言う大人に苛つきを覚えたし、豪遊したと思ったら自殺を図るとか、エキセントリックさにも「脚本がおかしいんじゃない?」と真剣に思ってしまった。物語自体の起伏の無さも眠気が増すばかりだった。

 そんな訳で、世間的な評判は極めて高い作品なのに、わたし自身の評価は低いという作品になっていた。

 しかし、やはり年齢を重ねていくと色々変化するものである。フランクほどの極端さはないにせよ、多くの人たちとつきあい始めると、多かれ少なかれそう言う精神的な問題を持つ人ともつきあわねばならなくなってくると、大人ってのは分別を持ってる訳じゃ無いんだということが分かってくるし、実際自分自身がその年齢に近づいてくると、逆にフランクに近親感を持つようになってくるものだから。

 結局フランクに対して自分自身とどれだけ距離感を持っているかで本作の評価は変化し続ける事が分かった。20代そこそこの自分では全く分からなかった人間が、親しく感じるような年齢になって、やっと愛おしく感じられるようになったのだから。

 そして改めて、本作は映画的にも「対立軸」というのをちゃんと持った作品だと言う事も理解した。

 本作の二人の主人公の立場はまるで正反対である。

 若くて経験は浅く、金も持ってないが、これから法曹界へと進出し、成功が待っている青年と、経験は積んでいて金も持ってるものの、栄光は既に過去。余生に何の希望も持てない壮年。

 この対照的な立場が、映画の中でちゃんと交錯し、お互いの人生の中で大切な意味を持たせていく。

 本作はこの二人がセットだからちゃんと成立する物語なのだ。

 更にもう一つ。フランクの目という障害を与えたことも大きな意味を持つ。  映画ではパチーノの演技力があってこその事だが、どんなハンディがありながらも、ちゃんと魅力が出せる。人はどんな状態になっても希望を持つ事が出来るということをしっかり演出している。そのため、フランクは最後に将来ある青年に希望を与えただけで無く、自分自身も生きる力を得ていくことになる。

 意外に歳食ってみると分かる映画ってのもあるもんだ。

(評価:★4)

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