[コメント] 渚にて(1959/米)
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これはもの凄い作品。核戦争と言えば派手なシーンと絶望に駆られる人間のパニックが描かれやすいのだが、本作は決してそんなことはない。むしろ最後の最後まで努力を止めず、本当にどうしようもなくなった時、静かに終末を待つ。そんな淡々とした情景が描かれる。
この作品においては、何より「静かさ」が恐ろしい。笑いさざめくパーティ会場で、ほんの一言の不用意な言葉で周り中が沈黙する瞬間、ゴースト・タウンと化したサンフランシスコの廃墟の静けさ、配布される睡眠薬(実は毒薬)を黙々と受け取る人の群。そして本当に誰もいなくなってしまったメルボルンの虚しいラスト。中途半端に核戦争を扱った作品には到底及ぶことの出来ない悲壮感が充ち満ちている。
演じる役者もそうそうたるメンバーだが、好みはアステア。踊ってなくても充分に素晴らしい演技を魅せてくれる。パーキンスも(翌年に公開された)『サイコ』での怪演はどこへやら、さわやかな青年を好演しているし、ペックに関しては言うまでもない。目線だけであれだけの演技が出来ている。脇を固める役者達の演技も良い。今まで散々直し続けた額絵を傾くままに任せ、誰もいない酒場で一人ビリヤード台に向かうギャリソンや、「どうだ、老いぼれと一杯やるか」「いいえ。でも、提督となら」と言うラストの掛け合い。実に練り込まれた台詞の数々、何気ない言葉の裏に恐怖と悲しみが詰まっているような。更にそこに沈黙の演技が入ることにより、もの凄い説得力を持つ。
これが1959年つまり米ソ冷戦下の真っ直中で製作されたと言うのも凄い。
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