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[コメント] 明日に向って撃て!(1969/米)

十数年前、この作品のロバート=レッドフォードは私のヒーローだった。しかし、今はポール=ニューマンの方が、私のヒーローとなっていることに気付いた。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 これを観たのは大学生の時。実は『スティング』の後で観たのだが、『スティング』とはまるで違う魅力に魅了された。

 当時、私はレッドフォードのギラギラした魅力に惹かれていた。実は当時私は本当に内面的に荒れていた。そんな時に見たサンダンス=キッドの姿。拳銃使いが巧いと言う以外、自分が何者かさえも分からず、ただ苛ついているその姿。彼を満足させることは何もなく、ただ荒れる。その気持ちが自分だけが分かるような気がして、そう言う生き方をしたいと思った。いや、正確に言おう。ああ言う死に方をしたかった。ラストシーンに至るまでの彼の一貫した苛つき加減。そして充実しきって死に場所を見つけたあの美しさ。本当に惹かれた。

 しかし、このレビューを書く際、当時の気持ちを思い出していたら、以前程レッドフォードが美しいと思えなかった。これは何も彼の輝きが減じたわけではない。それ以上の魅力を見つけただけの話。

 実は今、これを思い返すと、むしろニューマンの魅力の方に惹かれている自分がいる。

 この作品は友情の話だ。中にキッドとエッタの愛情めいた話も入れるが、あくまで主題はブッチ=キャシディとサンダンス=キッドの友情が主軸となっている。男二人と女一人の組み合わせは意外に映画には多いし、良作も多い。これは多分、男の一人が完全に引いた所に身を置いているからだろう。ただこの構成だと、恋愛の当人よりむしろ、もう一人の方が実は巧さを要する。単純に作ってしまうと三枚目になってしまうのだが、三枚目になりつつも、それを感じさせない、あるいは越えた役割を担うのは極めて難しい。役者だけではなく監督の力量も必要とされる。

 それでブッチ役のニューマンだが、彼はキッドの身勝手さ、苛つきを全て鷹揚に受け止め、そしてなにかれとなく彼のために行動する。利害関係を超え、キッドという漢に惚れたサンダンスの姿こそ、本当の大人の姿だった。

 勿論これはキッドの暴走を抑えるのではなく、容認してしまう事になってしまった。だから最後は一緒にああやって死んでいくしかなかったのだろう。だが、そこにはキッドと共に、確かに満足もあったはずだ。

 当時身勝手なだけで、自分以外の何物も信じられず、更には自分さえ信じられない私は、レッドフォード演ずるキッドに惹かれた。だが様々な場所で人間関係を経た(そして現在継続中の)今、他者を愛することが、同時に自分を愛することにもなったニューマンのサンダンスこそ、本当に羨ましいと思う。

 これを私が“成熟”というのか、それとも単純に“歳食った”と言うのかは判断できないが(恐らく後者だろう)、こういう風に思えるようになった自分は確かに変わったと思える。ああ言う人間になりたいと、今ではそう思う。

 と、なんか柄じゃない話になっちゃったなあ。

(評価:★5)

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