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[コメント] 誰がために鐘は鳴る(1943/米)

自信を持って言えるが、アメリカでは絶対リメイク不可能。これが製作できた時期を上手く捕らえた作品。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ヘミングウェイ原作の同名小説の映画化作品。この公開はまさに第2次世界大戦の真っ最中だったこともあり、この内容は非常に時代に合致したものだった。1943年の全米興行成績も2位と大健闘する。

 時代に沿った…そう考えると、実に微妙な時期に本作は投入されたものである。

 本作の主人公ロバートは、今で言えばコミュニストであり、しかもご丁寧なことに海外出張してまで政府への反逆を手助けしている。格好良いこと言ってもテロリストに他ならない。

 そのテロを「正義」と言い張る事が出来た時代は映画史においてもかなり短い。共産主義よりもっと質の悪いファシズムがアメリカの敵とされていた、しかも国そのものが犯罪者に規定できていたほんの僅かな時代だった(同時期に投入された傑作『チャップリンの独裁者』(1940)もこの時代だからこそ出来た作品だ)。ほんの僅かな間とは言え、アメリカにとっても共産主義は当時共に手を携え、ファシズムを打倒する同志だったのだ。

 まさにこのような時代だからこそ、原作をそのまま使うことが出来た。これがもし2年遅れていたら公開自体が危ぶまれていただろうし、現時点の国際情勢から見ると、リメイクはまず不可能な作品である(ヘミングウェイ自身もかなり左翼にシンパシーを持っていたし)。

 本作の売りはやはり極限状態で燃え上がる愛情って事になるんだろう。その意味ではやはり主役にクーパーとバーグマンという超一流スターを配したのは大きい。

 何でもクーパーは原作者のヘミングウェイ自身が指名したそうなのだが、問題はクーパーがRKOと既に契約していたこと。配給先のパラマウントはそれで困ってしまったのだが、ここで面白い働きをしたのがウッド監督。たまたまそのRKOのクーパーの次回作『打撃王』の監督が決まってなかったので、ウッド監督が自ら買って出て、その代わりとしてパラマウントにクーパーを借り出したのだとか。舞台裏にも色々ドラマがあるもんだ。

 又、すんなり決定したジョーダン役に対し、マリア役は決定に難航。色々な女優が候補に挙がったそうだが、最終的にバーグマンに決定。これがはまり役となり、原作者のヘミングウェイも出来上がった映画を観て、「あなたこそマリアそのものだ」と言って、バーグマンにサイン入り原作本を贈ったと言う逸話が残ってる。

 勿論主役二人だけでなく、脇を固める個性的な役者達の存在も重要。特に強烈な印象を残す女戦士ピラー役のパクシーヌの存在感は主演を凌ぐほど(ギリシア系の彼女は、イギリスの舞台俳優だが、彼女に目を付けた監督が殆ど無理矢理に、U−ボートがうようよいる大西洋を突っ切ってアメリカに連れてきたのだが、途中実際に襲われて命が危なかったとか。ちなみに本作ではクレジットこそされてないが、撮影助手も務めている)。それ以外にも、何を考えてるのか分からぬパブロ役のタミロフも、複雑な役所をしっかり演じていたし、戦士の面々も個性的だった。爆撃で一瞬に殺される面々にもしっかり個性付けがされていたのも凄いところ。

 それに当時の特撮の技術もかなり高い。今観ても一見合成が分からないような部分まであるから。たいしたものだ。

 ところで先に「時代に沿った」と私は書かせていただいたが、この時代だからこそ、制作は無茶苦茶大変だったらしい。なにせ撮影開始した途端、日本が真珠湾を攻撃してきたので、撮影に待ったがかかったり、大作だけにロケーションには多数のスタッフを必要とするのだが、その人達が戦争に狩り出されてしまって、スタッフ不足に悩まされるわ、同様に飛んでる飛行機の撮影は許可がなかなか下りなかったとか、様々な問題があったらしい。戦争とは直接関係ないけど、この撮影は展開上、冬に行う必要があり、撮影はカリフォルニア北部のシエラネバダ山脈で行われたのだが、氷点下での撮影だったため、カメラが凍り付いて動かないこともあった。

 結果的に、制作だけで2年以上の年月がかかった作品だった。それでこれだけ受け入れられたのだから、冥利に尽きるってもんじゃないかな?

(評価:★3)

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