コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 追想(1956/米)

何という存在感!
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 言ってはなんだが、よくあるタイプの恋愛劇。『マイ・フェア・レディ』に似た形式で、終わり方もそれに似ている感じ(と言ってもこっちの方が先なんだけどね)。そう言う意味ではさほど言うべきところはない。

 だが、この作品、カメラ・ワークがもの凄い。いや、これだけのキャラクターを活かす方法をよく知っていると言うべきか。バーグマン、ブリンナー、そしてヘイズはとにかくキャラが立っていて、それらが一堂に介し、会話をやり取りする。それだけで充分すぎるほどの存在感を醸しているのだが、それだけではない。リトヴァク監督、実はキャラクターを不在にすることで、その存在を更に浮き出させるという、極めて高度な撮り方を行っている。

 なにせ、ブリンナー、バーグマン共に存在感の固まりのようなキャラクター。彼らがたとえ出てこなかったとしても、その存在感は持続する。それを端的に表したのはベッドルームでの二人の会話だが、カメラは基本的に二人のベッドルームの間にあるホテルの広間だけをカメラは映し続ける。彼らの存在感は声だけ。だが、その声の何と立っていたことか。二人がそこにいる。それがはっきりと分かる巧い撮り方だった。

 それにラスト。殆ど喋っているのはヘイズのみ。バーグマンもブリンナーも全く登場せず、他者から「いなくなった」とだけ告げられる。手に手を取り合って駆け落ちする二人の姿も観てみたかった気がするが、それを視聴者の想像力に任せてしまった所が凄い。勿論これは、二人が居なくなったことをエイズが充分カバーできた所に追う所が大きいけど。キャラクターを映さず、しかもその存在感をますます強調する。映画にはこんな映し方もあるんだね。いや、勉強になった。

 ところで、この作品、アカデミーを始め、様々な賞を取ったのはイングリッド=バーグマンのみだが、むしろユル=ブリンナーヘレン=ヘイズにこそ、助演男優賞、女優賞を取らせるべきだったんじゃないかな?

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (4 人)ゑぎ[*] けにろん[*] 死ぬまでシネマ[*] りかちゅ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。