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[コメント] ブルークリスマス(1978/日)

「特撮を使わないSF」?。私はむしろ「特撮技術を一切使わない特撮映画」として観たい。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 前々からずっと観たいと思っていた作品だが、やっとレンタルビデオで発見。ようやく観る事ができた。出来には大満足。

 人の心には差別心と言うのが拭いがたく存在する。それは多分背後に恐怖心が抜きがたく存在するからだろう。相手を差別する。それは紛れもなく、その人物が怖いから。怖いから遠ざけておきたい。そして遠ざけてしまったという罪悪感がますます距離を置くようになる。

 現代は随分そう言う教育も進んでいて、表面的には差別は無いものとされているのだが、表面に出ていない分、どんどん陰湿化している。

 まるでそれが予見されたかのように、この時代にこのような作品が作られてしまった。

 血が青くなる。表面的に見ればそれだけの事で性格まで変わる訳じゃない。「何が起こるか分からないから」という建前は付くが、見た目に明らかに違った特徴を備えてしまった人間に対し、人間がどれほど残酷になれるか。そしてその差別心を隠そうとしてどれ程自らを正当化しようとするか…小説なら兎も角、映画でこれをやったと言う事実が凄い。

 物語はジャーナリストの南と特殊部隊の沖という二つの視点から青い血の事件を追っていくわけだが、そのどちらも悲惨な結果に終わる。南は圧力に負け、自分と家族の安全のために真実を葬る(「守るべきものがある人間は強くなる」と言われる事もあるけど、それらを守るためには「正義」を失う事もあるんだ)。一方沖は、南とは違った意味で、否応なしに真実に直面せざるを得ない立場にある。その彼が恋人の冴子が青い血である事を知って、しかも彼女が“泳がされている”事を知りつつ、何も出来ず…否。更に過酷な運命へと自らを投入して行かざるを得なくなる。当時の竹下景子が、これ又可憐。「本当に来てくれるなんて…」というラストの言葉はマジ背筋が凍ったよ。結果、沖は自らも殺される事を選ぶ事になる。

 抜きがたく人間の中にある恐怖心。そしてそこから起こる差別の心を見事に映像化した岡本喜八監督には惜しみない拍手を送りたい。

 UFOという荒唐無稽なものを前面に出したため、SF作品として捉えられている本作だが、SFだからまだ娯楽として収まってる。これをもし社会派ドラマとして捉えてしまったら、あまりに重すぎて正視に耐えないし、多分観る気力さえ起きなかっただろう(その手の実話はなるだけなら娯楽の立場では見たくない)。物語、しかもSFだからこそ、傑作たり得る作品だ。

(評価:★5)

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