コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] マイ・フェア・レディ(1964/米)

これをもし10数年前に観ていたら、多分私にとって最高の作品になってたはず。歳を取ると言うのは、良いことなのか、悪いことなのか…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 オードリー=ヘップバーン主演の傑作の一つ。彼女の喋り方、物腰、歌などまさしく見事な作品。彼女が可愛いだけでなく、まさしく演技派であることを世に示した。

 それにしてもこんな難しい役を良くこなしたものだ。イザベラという訛りの強い、気の強い下町娘から後半の貴婦人然とした物腰への変化とギャップは見事なものだし、ミュージカルシーンでの彼女は輝いて見える。

 だけど、なんと言ってもこの作品ではヒギンズ教授役のレックス=ハリソンが良い。

 膨大な知識が頭には詰まっていて、金も地位も問題なし。しかも誰に対しても態度を変えることが無く、傍若無人な態度を崩そうともしない。こんな生き方、格好良すぎる。特に10数年前の私だったら、まさにこれこそ理想的な生き方だった。誰に煩わされることもなく、自分のやりたい研究に没頭し、優雅に生きたいように生きる。なんと素晴らしいことよ。

 しかし、ヒギンズ教授がイザベラを拾った事によって彼の人生も転機を迎え、教育することによってイザベラだけでなく、彼も又、変えられていく。実際自分の理論を証明するための実験体としてしか見ていなかったイザベラ。彼にとって一つの作品に過ぎなかった彼女がいなくなった時、本当の自分の気持ちに気付く。いや、正確に言えば、否応なく気付いているのに、今までの自分の信念が崩れるのを恐れ、得意の理論を用いて自分を騙そうとし、母の家で再会したイザベラに対し、強がりを言うしかできなかった。

 それで我の強い二人は意地の張り合いとなって決裂するのだが、それで家に帰る時の彼の自分に言い聞かせるような強がりの台詞。家に帰ってから、寂しさのあまり彼女の声を吹き込んだ録音機を書ける時の寂しそうな仕草。

 最後に彼女が帰ってきた時、帽子を目深にかぶり直して「スリッパを取ってくれ」と言うのだが、この気持ち、良く分かるな。あの帽子の中での表情は安堵感と威厳を崩さそうとしないように必死に押し留める事で、グチャグチャになっていたことだろう。男はそんな顔を見せるべきではない。そんな意思を充分に感じることが出来た。無茶好みだわ。

 これがホント、もし10何年か前にこの作品と出会っていたら、多分確実にマイ・ベスト筆頭作品になってたはず。大分年を食ってから、つい最近になって観たわけだが、今観ることが出来たお陰で随分と冷静に、この作品の巧さ、自分の感情をある程度コントロールして観ることが出来たのは良かったよ。

 勿論ヘップバーンとハリソンだけではなく、ハロウェイやクーパーと言った脇を固めるキャスト陣も上手く、特にミュージカル・パートでの本当に楽しそうな歌と踊りは絶品。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (8 人)YO--CHAN[*] G31[*] ina らーふる当番[*] sawa:38[*] KADAGIO 鵜 白 舞[*] はしぼそがらす[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。