コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 山猫(1963/伊)

革命に湧く激動の時代を皮肉に見つめる。これこそがヴィスコンティの視線。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 ヴィスコンティは時代によって画風を次々に変えていった監督で、ネオ・リアリスモから始まり、政治闘争の映画へ、それから耽美的描写へと。それぞれの時代それぞれの作風で多くのファンを獲得していったが、実は本当に面白い作品は、脂の乗った時期ではなくその転換期にこそある気がする。

 本作は政治闘争劇から後年の耽美的作風に到るまでの移行期に当たる作品で、これまでのファンに激怒された一方、このあまりにも豪華で美しい描写には、ますます多くのファンを獲得するに到る。実際批評家からは「監督自身のためのメモリアル制作」とも言われたそうだけど。

 実際この映像美は凄まじいもので、妥協ない描写が見事にすぱっと決まってる(完全主義者として知られるヴィスコンティは衣装のシャツを、納得のいく赤い色を出すために20回も染め直させたという)。なんと1時間以上に及ぶ舞踏会シーンは、それだけでしっかりと物語になっている。

 そしてこれこそが「過渡期」と呼ばれる訳だが、これだけ豪華なパーティを、あくまで皮肉に見つめている公爵の目が素晴らしい。革新的でありながら、退廃的でもある。この皮肉のこもった目こそがヴィスコンティの真骨頂と言えるだろう。没落していく貴族の生活の最後の輝きを克明に描くことで、自らのプライドを見せてくれた。

 一方では、事件らしい事件が起きる訳でなく、物語は本当に淡々と過ぎていく。この雰囲気に浸ることこそが観ている側に求められることなんだろうね。

 それにしても貴族ってのは凄いなあ。家の中にはどこまで行っても部屋があるし、その中で空虚に笑いさざめく人の群れ…これを“綺麗”と見るか、“空虚”と見るか。ヴィスコンティが観客に突きつけているのがそこなのかも知れない。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ジェリー[*] りかちゅ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。