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[コメント] ファイト・クラブ(1999/米)

一応この作品の出来は自分なりに納得いったが、一つだけ、疑問が…
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







最後にタイラーとのファイトがジャック一人でやっていることが発覚するのだが、タイラーがジャックを引きずっていくのはどうやって自分で演じたんだろう?

………………………………閑話休題…………………………………………………

 チャック=ポーラニックによるベストセラー小説の映画化。原作の方は映画を観た後で読んだのだが、極めてアンモラルな雰囲気に溢れていて、とても楽しかった。簡単に作ることが出来る爆発物とか、人の身体にどのように苦痛を与えていくかなど、普通の本ではとても読むことが出来ないとんでもない事が書かれていて、大変興味深い内容だったが、こんな本がベスト・セラーになるアメリカという国に対し、かなり不信感を覚えたのも事実。

 この作品は、前半部は主人公のジャックが安定した自分自身を見つけようとする道筋が描かれる。彼が最初に選んだ方法は自分より不幸な人を眺めていれば、眠ることが出来る。と言う不健康なものだったが、タイラーと出会うことにより、自分の中にある戦いの本能を呼び起こすことではっきりと自分自身の本質を見つけていった。それが中盤になると、その心の拠り所だったファイト・クラブがタイラーにより段々変質していく事に対する恐怖へと変わっていく過程が描かれる。そして後半、タイラーがその本質を明らかにした時…という風に描かれる。自分にとって救いと思っていたのが、実は巧妙な罠に他ならなかったと言うのは面白い展開。

 正直、これは本当に画面に釘付けにされた。ストーリーの展開が全く掴めないのだ。特にオープニングのシーンがあまりに変だったので、それに至る過程が全く分からないと言うのは、ストレスが溜まる。それをちゃんと見させるのはやはりフィンチャーの手腕だろう。キャラも上手く立ってたし。

 思うにフィンチャー監督は一貫して人の心の中にある欲望を描こうとしているのではないだろうか。『セブン』ではそれが殺人願望であり(深く考えれば“敬虔さ”とその相剋としての“罪”そして殺人だったのかも知れない)、『ゲーム』では、桁外れの舞台設定においての、妄想を超えた理想の追求であり、そしてこの『ファイト・クラブ』では人の内にある破壊願望として。だから最初のファイト・クラブ創設では相手の肉体のみならず自らの肉体への破壊衝動も含まれるし、後半ではこの世界全てに対しての破壊が強い欲望となっている。

 ジャックの影として生きてきたタイラーはジャックにとっての欲望そのものの具現化した形であった。だからこそ、原作のようにタイラーはジャックの全人格を奪おうとしているわけではないし、ラストはその欲望の成就として、ジャック自身がタイラーとなるような描き方をしている(そうするとあれはタイラーに上位を譲ったのではなく、ジャック自身がタイラーと同化したと見るべきか?)飽くなき欲望の追求。それが成就した形として『セブン』であれ、『ゲーム』であれ、この『ファイト・クラブ』であれ、ラストが描かれているのではないか?観客の目からすれば、それは決して楽しいものではなくとも…

(評価:★4)

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