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[コメント] ロード・オブ・ザ・リング(2001/米=ニュージーランド)

「原作の映像化」という点では★5。だけど「映画」という点では★3。だから間取って★4にしました。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 この映画については色々言いたいことが詰まっている。

 これは言うまでもなく有名なファンタジー小説「指輪物語」の映画化作品。ファンタジーの源流とも言われる原作は私も大好きで、今でも時にパラパラとめくってみる事がある。その内の第一部である「旅の仲間」を全て映像化しようという壮大な試みだ。正直映画化は無理だろうと思っていただけに、少なくともこんな事をやろうと思うこと自体に感動を覚える。

 ただし、言っておくが、あれだけ長い物語を本当に映画化してしまったのだ。無理が生じないわけがない。

 大体、前に映画化された『ハリー・ポッター』だって一巻分を映画化するのはかなり難しく、映画は詰め込みすぎた感じがあった。ところが、大体3時間もあれば一冊読める『ハリー・ポッター』と違い、この『指輪物語』は、一部「旅の仲間」だけでも、私の読書能力総動員しても丸一日はかかる。単純計算でも『ハリー・ポッター』の数倍に及ぶ内容量がここには詰まっているわけだ。そんなものを全て映画化しようって言うなら、数時間じゃとても足りない。

 結局3時間にまとめられたこの映画、本当に原作を上手くまとめ、ちゃんと映画になってはいた。これなら原作ファンも頷ける内容だ。勿論いくつかの物語は外され、整合性を持たせるためにショートストーリーが挿入されたりしていたが、物語の重要な部分は殆ど入っていた。よくこれだけのものを映画にできたものだ。偏見だが、監督が監督だけに結構心配していたんだ。本当に。

 その点については見事。と言っておこう。

 でも、殊これを一本の「映画」として見ると、この作品はちょっといただけない。簡単に言ってしまえば詰めすぎ。

 私にとって本当に良い映画の基準というのは、計算された緩急にこそある。アクションシーンならいくらでも格好良く作ることはできても、淡々と流れるシーンをいかに上手く見せるか、と言う点は極めて難しい。流して観るようなそう言うシーンこそ映画の重要性がある。むしろアクション映画であれば、その点をこそ踏まえて欲しいと思っている位。然るに、この作品は見せ場だらけで、淡々と流れるシーンが殆ど無い。せいぜい前半15分のつかみのシーンくらいだろう。後は緊張感とその解放であるカタルシスのシーンが続く。原作の見栄えのするシーンをつなぐと、結局こうなってしまうのだから、仕方ないと言えばその通りなんだけど…

 原作は緩急の取り混ぜは実に上手いのだが、それはあくまで小説での話。そんなもの全部入れていたら上映時間は数倍になってしまう(その方が私は嬉しいが、さすがに商業的にそんなことは出来るはずがないし)。

 とにかく観ていて疲れる。いや、観ている間は良いんだけど、見終わった後の脱力感が凄まじい。最後に癒し系歌手エンヤの歌を入れたのは心憎い配慮なのかもしれない。

 この映画は結局、「原作を上手く映像化したもの」であって、敢えて言ってしまえば映画としての完成度は低い。

 ところで内容だが、物語の方は元が良く、それを忠実に映像化してくれたのでさほど文句はない。ただ、出来れば『指輪物語』の前史である『ホビットの冒険』を先に映像化して欲しかった。ビルボがどうやってその指輪を手に入れたのか、これではあまりに分かりづらすぎ(『指輪物語』三部作が終わったらやるかもしれないと先読みしてるけど)。後、ラストシーンは何故か一気に次回作である『二つの塔』を飛ばして『王の帰還』に入ってるんだが…(多分、次回作はフロドは脇役に押しやられて、メリーとピピンを中心とした物語になるんだろう)。

 字幕については、怒りまくってる人間の事は、良ーっく理解できる。原作ファンは瀬田貞二氏の訳に慣れ親しんでいる分、あの訳し方じゃ腹を立てるよ(ストライダーの瀬田訳は「馳夫」。それに対し、映画で「韋駄天」と訳していたのを見て、本気で怒りを覚えた)。まあ、英語読解出来る人だったら字幕を無視すれば良いんだけど(台詞そのものはかなり楽な英語の部類にはいるから、挑戦してみたくもある)。後、友人から「エルフを見せるのに光を用いるのはちょっと好きじゃない」と言われていたが、まあ、あれはフロドの目から見て。と言うこともあるだろうし、アニメだと常套手段だから別に気にならず。

 雑学だが、エルフを高潔なキャラクターとして創造したのは原作者のトールキンが最初。元々はエルフィンという悪戯好きの妖精を、トールキンが自分なりにああ言った種族に設定してしまっただけの話。現在のファンタジーは『指輪物語』から派生したものだから、その設定が今の常識になってるけど。それに元々エルフは耳が尖っていたわけではない(映画では別に尖ってなかったし)。多分人間との差異化を図るために誰かが勝手に創造したのだろう。

 ところで、観終わって思うこと。

 米アカデミー会員って、原作の『指輪物語』がとても好きな人が多いのだろう。あの原作をよくぞ映像化してくれた!と言うのでドカドカ投票したんじゃなかろうか?それは分かるけど、少なくとも私はこれを「映画」のカテゴリーに入れたくない。むしろ私はこれは「原作の映像化作品」と呼びたいな。無理を承知で言わせてもらうなら、一年くらいのテレビシリーズで作ってくれればなあ。

(評価:★4)

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