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[コメント] クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦(2002/日)

アニメでは泣けない。と言う人にこそ観て欲しい。技術を突き詰めた芸術的巧さが光る作品です。
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 アニメにもピンからキリまである。私自身が本当に映画の楽しみというのを教えてくれたの自体がアニメ映画だったため、結構思い入れはある方だが、そのほとんどは碌でもないものばかり。実写と較べて遙かに制約が多いのと、アニメは子供のものとしていた偏見が手伝って、良い作品が出来にくかった訳だが、それでも捨てることが出来ずに、長いことアニメ作品を養護し、その中で良いものを探そうとしていたものだ。しかし、ある時期、を境に疲れを感じ、アニメを捨ててむしろもっと興味の持てる普通の映画の方に移っていったわけだが、そんな時期に風の噂で「映画の『クレヨンしんちゃん』は面白い」と言っているのを聞いた。

 別段興味なかったし、親から「見せたくないアニメ」の筆頭と言うくらいだから、どうしようもないんだろう。とかその時は笑い飛ばしていたのだが、それがちょっと心に引っかかっていたのだろう。テレビで『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001)をやるというので、録画しておき、大分時間が経過してから拝見。

 はっきり言ってあの作品は衝撃だった。アニメ止めたなんて馬鹿なこと自慢して言ってた自分が痛切に恥ずかしくなってしまったほど。今の日本にここまでの作品を作る事が出来たのか?何でもっと早くこれに気づかなかったんだ?

 そして更に大きな問題は、監督原恵一の次回作、つまり本作は、私が『オトナ帝国』観た時には既に公開が終わっていたという大きな事実。これほど痛切に「失敗した!」と思ったのは久方ぶりのことだ。

 結局一年ほど経過してからレンタルで拝見することになったのだが…

 『オトナ帝国』の時も驚かされたのだが、本作の驚きはそれを凌駕していた。

 確かに設定的に言うなら『オトナ帝国』の方が遙かに面白いし、家族の絆を描くのも、こちらの方が上だったと思う。そう言う意味で言うなら本作の視点はありきたりだし、設定もアラが多い(土台なぜ野原家が戦国時代に行ってしまうのか、説明がまるでないわけだし)。

 しかしである。完成度の点で言うのなら、本作の出来は遙かに上行ってる。いや、日本アニメにおいても、これほどの完成度を見せた作品はほとんどないと断言できる。

 物語そのものの素晴らしさというよりはそれは演出の素晴らしさであり、どういう風に作れば面白くなり、どの程度まで脱線させられるか。と言う確信犯的な手法が用いられた結果だ。

 これまでも原恵一が演出した作品は物語の本筋を無視して脱線しまくり、しかもその脱線があるべき所に収まっていくという、一種職人芸的なコントロール技術を誇っていたが、本作のそれはこれまで較べても遙かに洗練されており、全くそう思わせないまま、あるべき所に落ち着くように出来ている。

 そして最後のあっと驚く終わり方。子供用のギャグ作品でこれやっちゃうのか?これは本当に悲しい物語だった。実はそこに至る伏線までもしっかりしていたのだが、そこには全く気づかせない作りに仕上げられていて、私はむしろ悲しみを覚えるよりも唖然とさせられた。ここにこれを持ってくるか普通?…実は号泣してたけど(笑)

 このオチで完全に参ってしまった。しかもなんとも巧みな伏線の張り方。あれだけしんのすけが無茶苦茶かき回しているというのに、きちんとそれが伏線として機能していたのには脱帽ものである。

 それに、本作は敢えて年代を特定したのが面白い。ギャグ作品、殊にアニメ作品だったらとりあえず「戦国時代は戦国時代でそれっぽく作れば良いじゃないか」となるのが普通だが、本作は敢えて天正二年(1574年)という年号をしっかりと打ち出してる。この制約を与えることによって、劇中に登場する調度品から風習まで、そのぴったり同じ時代で作らなければならなくなった。しかもそれ、手を全く抜いてない。人物の造形を省略できるだけ省略していながら、時代考証は驚くほど精緻に、しかもその使い方までしっかりと考え抜かれて使われてる。それをギャップと感じさせない演出。本当にこれには唖然とさせられる。

 確かに穴は多い作品だろう。しかし、その穴を逆手にとって演出上のスパイスにしてしまう技術がここにはある。驚くべき作品である。

 オールタイムでアニメのマイベスト5に確実に入る作品。

(評価:★5)

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