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[コメント] ギャング・オブ・ニューヨーク(2002/米=独=伊=英=オランダ)

入念のカメラ・ワークと歴史認識の重さに唸らされる。だけど、もうちょっとだけバランスを考えてほしい。(オープニングが好きなので★1プラス)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
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 スコセッシ監督入魂の一作。本当は公開は一年前だったはずだが、撮影の遅れに例の連続爆破テロが重なって、製作はかなり難航したらしい。私としては期待半分。半分は失望に終わることを覚悟して観に行った。

 冒頭のシーンは凄かった。これぞまさに肉弾戦!と言う描写に酔う。肉同士のぶつかり合いと飛び散る血、ひしゃげ、切り刻まれる肉。

 最近の戦いの映画と言えば銃を用いるか、あるいは肉体を使った戦いでも一対一のものばかりなので、こう言った肉体同士の乱戦いはとても新鮮だった(冒頭で感情移入しすぎてちょっと酔った)。

 ここで「お!やるじゃん」と思ったのだが…

 ここまで期待させておいて肝心な復讐劇はとても弱い。決して悪いとは言いたくないんだけど、非常に中途半端。ビリーの魅力を更に全面に押し出すなり、ジェニーとの恋愛をもっと深く掘り進めるなどの方向性に持っていっていれば(もちろん私の好みは前者)まだ良かったのだが、結果として重点が分からず、中途半端に終わってしまった。

 勿体ない中だるみをわざとらしく演出した後、ビリー暗殺失敗から展開が意味もなく早くなりすぎ(屈辱を与えるための頬の傷について、全く言及もされないのも勿体ない)。

 結局はバランスの問題で、中途半端な描写しかしなかった割に中間部分の描写が長すぎたんだ。

 それで本来ここが一番重要なはずのラスト部分。ここだけは事実を元にしているので、ここにこそもっと重点を置いて欲しかった。オープニングの肉弾戦を更に過激にやってくれるんだろうか。と期待してたら…あれかよ!

 アムステルダムがビリーを殺せたっていうのは正々堂々などというものでも、暗殺という形でもなかった。一言で言うなら、「単なる偶然」…けっ。こんな結末にするためにこれだけ長時間見せられたのか?ここで思い切り興が削がれた。

 ストーリーに限って言えば、大作をもくろんで力を入れすぎた結果、並以下になってしまった。

 ただ、演出面は文句なしにすばらしい。凝りまくったカメラ・ワーク(シークェンスごとに何かしら目を見張る描写が入っていて、時折ゾクッとさせられる)。移民の、しかも当時の社会的には下層の人々が集まる町の、様々な人々の表情(特に狂乱状態の引きつった顔のアップは凄いものだ)。中でも冒頭の肉弾戦シーンでは、一人一人の個性を演出し、目立たせるべき人物をしっかり目立たせていたし、配慮も行き届いていた(ビリーは肉屋だけに、肉切り包丁で戦ってるし、ヴァロンに至っては十字架で相手をどついてる)。その辺はさすがスコセッシ監督と言うべき(撮影延期のお陰なのかも知れない)。

 キャラに関しては、デイ・ルイスの突出した魅力。これだけで充分。このキャラクターにはディアスとディカプリオを合わせてやっと少し対抗できるか?と言う位。冒頭部分の神父役のニーソンも良い味を出してた。

 歴史的認識はかなり細かいところまでやっていて、好感は持てるのだが、残念ながら、ストーリーから遊離した部分が多すぎ。

 決して悪くはない作品。むしろ私にとってはものすごい好みなんだけど、肝心のストーリーのバランスが悪いのがとても残念。そこがちゃんと出来てたら文句なしに★5だったんだけど。 

(評価:★4)

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