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[コメント] ラスト サムライ(2003/米=ニュージーランド=日)

散る桜は武士道に喩えられますが、もしその桜が長持ちするなら、どうなるんでしょう?(以下は、あまりと言えばあまりの細かすぎるつっこみ満載です。読まれる方は気を悪くする覚悟を持ってくださいませ)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 実は本作はかなり期待していた。

 最初から「毛唐が武士道なんぞ分かるはずはねえだろ」という思考停止には陥らぬように気は付けたつもり(だって私だって分からないもん)。むしろアメリカ人が考える武士道とは一体なんぞや。日本の中にいる私には分からない日本の面をここで出してくれることが出来るのか。と言う部分に魅力を感じていた。

 かなり期待しながら本作の公開を待っていたわけだが、先ず予告編で驚かされた。なんじゃい!ストーリーがモロ分かりだろ?えらい大胆な予告だな。それだけ内容に自信を持ってるのか?

 それで本作を鑑賞。

 確かに期待を大きく上回ることはなかったし、目新しい部分は感じられなかったとは言え、物語自体はそつない作りだったし、キャラクターにも魅力はかなりある。最初から最後まで飽きさせなかったし、面白い作品であったことを否定はしない。トムの殺陣シーンは、未だアクションスター健在ぶりをみせてくれたし、最後のガトリング銃でなぎ倒される侍たちの姿はかなりグッと来るものがあった(特攻好きだから)。

 なによりこれまでのように日本人をエイリアン(この場合異星人)のように捉えるのではなく、全く逆に日本という文化に入り込んだエイリアン(この場合来訪者)として描かれると言った視点は大変気に入った。

 ただ、映画単体としては充分評価できる出来なんだが、設定マニアの気がある私には、細かいところがどうしても気になってしまった。気にしなければ問題ないんだが、あまりにも多くの小骨がのどに引っかかり続けた感じ。

 思いつくままにつれづれに挙げてみよう。

 ・町並みとか吉野の郷とか寺とか、全部綺麗すぎ。年季とか、薫りとか(あるいは臭いとか)が全然感じられない。埃っぽくもなく、ゴミとかも全然落ちてなさそうな町や、「千年前に建てられた」はずの寺が全然黒ずんでないとか。全部表面的なんだよな。

 ・日本最初の軍隊は農民によって作られていた…これはもうちょっと後の時代になってから。この当時は食いはぐれた氏族とか、薩摩や長州と言った侍達によって構成されていた。20年ほど時代がずれてるよ。

 ・かたくなに鉄砲を用いず、刀に頼る勝元。鉄砲伝来は300年も前。集団戦において使わない武将はいないはず。それにしてもあの熟練した弓矢使いは見事だな。まるで『ロード・オブ・ザ・リング』のレゴラスみたい(笑)

 ・日本で撮影した訳じゃないから仕方ないんだけど、森の植生が明らかに日本のものじゃない。あんな裸子植物ばっかりの森なんて、日本では殆どなし(スモークでごまかそうとしてるけど、ごまかしきれるもんじゃない)。それに吉野の郷の描写ではあんな草地ばっかりの平地なんて日本ではあり得ない。あれだけ広大な土地があれば、全部田んぼになってるよ。郷の中でも山とかが全部草地だし。あれが全部畑とかだったら納得いくんだが。それと吉野で軒下に大根や柿がぶら下げてあるのはリアリティあるんだが、大根を一本だけぶら下げてみたり、その隣に柿をぶら下げるのはおかしい。大体干し柿作るなら、なんで柿の皮剥いてないの?(我ながら思うけど、細けすぎ)

 ・吉野の郷の描写も、落ち武者の郷じゃないんだから、城下町かそれに準ずるものがなきゃおかしい。士農工商の制度が確立していた時代に農村と城(この場合寺になってるが)が一緒になってるなんてどう考えたって変だぞ。それに江戸末期以降、農村は酷い暮らしになってるはずなのに、非常に牧歌的な村の描写がされてるしなあ(一応言葉ではちょっとだけ語られてるけど)。侍は自分の土地を持っていたわけだが、その土地に住むことは基本的には許されてなかった(例えば北陸なんかではその限りではなかったそうだが)。つまり、侍の住むところは侍とその家族しかいなかったはずだから。

 ・冬場で雪が降ってないし、畑を耕してる人間までいる。き、季節感が…

 ・忍者の描写がニンジャになってる…これは別段良いか(笑)

 ・吉野の郷のモデルは多分薩摩だと思うけど、あそこの剣術である示現流って、実は立ち会いがないんだよね。示現流の特徴は型と木に向かって打ち込むことがほとんど。まるで木刀をバトンのようにくるくる回すのもちょっとなあ。

 ・クルーズと小雪のキス・シーンは、日本では唇同士を合わせる習慣が出来たのは随分後になってから。閨の睦み事だったらともかく、女の方から唇をねだる描写は文化として存在してない。

 ・最後の集団戦法が平地での力と力のぶつかり合い。なるほど。これがやりたかったから平地が必要だったのか。と言うのは分かる。だけどアメリカならいざ知らず日本でこんな正面衝突するのは、兵力に劣る側としては自殺願望としか思えない。戦闘力にどれほど自信があろうと、まずは相手を無力化することから考えなきゃなあ。要するに大将が無能だって事を強調してるだけだろ?

 ・後、これは非常に気になったことなのだが、桜がなあ。…日本で普通に見られるソメイヨシノは江戸末期に吉野で交配されて作られた種。この特徴はそれまでの桜と違い、葉に先立ち花が咲くことと、あっと言う間に散ってしまうこと。桜が武士道精神の象徴となったのは、実は結構後の時代になってから。それもあって舞台を吉野にしたんだろう。一応あれはソメイヨシノのように見えるんだが、吉野で桜の咲いたのを確認してから江戸に行き、命からがら吉野に戻って、戦の用意をして迎え撃つ、その時まで桜がずーっと咲き続いている。こんな長続きする桜なんて桜じゃない。

 ・相変わらずの超訳は健在…字幕を読むのが悲しくなる(これは関係ないか?)。

 …以上。あまりといえばあまりに細かすぎる突っ込み(自分でも嫌な奴だと思うよ)。

 要するにこの作品は仮想の国ニッポンを舞台にした作品であり、日本と思って観なければ良いだけの話なんだ。

 …なんだか書いてる時はとても楽しいんだが、書き終わって急に虚しくなってきたな(笑)

 一応、それなりに評価はしてるからね。

(評価:★3)

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