この映画について語る前に「リアル」について少し考えてみる。

なぜならこの映画はストーリー、テーマも大事だが「リアル」の裏にこの映画自身の何かが隠れていると思うから。

映画において「リアル」とは何だろう。よく「リアリティーが大事」ということはよく聞く。映画は嘘だ。より本物に近い嘘をつかなければいけない。 映画という虚構を現実という本物に近付けるため。人は本物、本当の話に感動する。

例をあげてみる。

●黒澤明の「七人の侍」という傑作がある。ラストの有名な雨の中の戦闘シーンで刀を地面に何本も突き刺し、２、３人斬ったら刀を捨て、その地面に刺した刀を使う。刀は「暴れん坊将軍」みたいに何回も斬れるものではない。 そのシーンはとても「リアリティー」だ。

●もうひとつ、キューブリックの「２００１年宇宙の旅」で、主人公が宇宙船に乗り、寝てしまい、手に持っていたボールペンがくるくると宙に浮く。これも今までの宇宙SF映画には必ず重力があったが、この表現はとても「リアリティー」だ。

細かいところのリアリティーが映画全体のリアリティーにつながり、そのリアリティーのおかげでストーリー、テーマにも真実味が出てくる。

ここまでの話は「リアリティー」＝「現実感」だ。

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本題の「リアル」とは。

私は「リアル」と「リアリティー」は違う意味の言葉として使っている。

映画の「リアル」、例をあげてみる。

●リンチの「ワイルド・アット・ハート」、主人公達が交通事故の現場に遭遇する。そこで怪我をした女の子が頭から血を流しながら、「ママに借りたヘアピンがない！」と言って自分の事よりヘアピンの心配をする。

●黒澤の「七人の侍」、ラスト、三船の演じる侍がラスト地面に倒れていて、泥だらけの尻が雨で流され白くなる。カメラはじっとその白くなる過程を記録する。

●タルコフスキーの「ノスタルジア」、主人公の詩人が廊下で呟いている時唐突に鼻血がでる。

●大島渚の「戦場のメリークリスマス」、デビットボーイの頭に白い蛾が止まる。そして飛び立つ。

これが私にとって映画の「リアル」だと思う。「リアリティー＝現実感」とは違う。「リアル＝本質」だ。

本質。

映画の本質はなかなか言葉では説明できない。例にあげたシーンには意味さえも存在しない。しかし確かにそこには本質がある。

その本質こそが映画の「リアル」だ。

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この映画の「リアル」はどうだろうか。

最初から言おう、私の思う「リアル」はこの映画には存在しなかった。あった気がしたが幻だった。今も良く解らない。

この映画の目標が「リアル」ということは手法を見たらわかる。いかに「リアル」を再現するかが映画から伝わってくる。その「リアル」によってテーマを人に伝えようとしてる。そのいかに「リアル」を再現するかという方法は。

役者に演技させない。シナリオなし即興。カメラ手持ち。ライティング、音楽、セットもほとんどなし。

キアロスタミと同じ手法だが、何かおかしい。

マンションのシーンでの会話、湖での会話、本当に素晴らしい。 しかし・・。

確かに「リアル」で「リアリティー」にあふれているが何か方向が間違っている。「ドキュメンタリー」という方向に行っているような。

この監督は「幻の光」「ワンダフル・ライフ」「ディスタンス」と段々ドキュメンタリーという方向に作風を移していった。それは「リアル」を表現したいからだと思う。けど私は最初の作品の「幻の光」のようなスタイリッシュな映画のほうが「リアル」を表現できていたと思う。それは「映画」だったから。

この映画は素晴らしい。そして「リアル」っぽいが、手法だけだ。

最近のこのドキュメンタリーに近付いている「リアル」の表現は今限界だと思う。

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つい先日、ある人から「あなたの言っている「リアル」はよくわからない。」と言われた。そして「そんなに「リアル」が好きならドキュメンタリー見ればいいじゃない。」とも言われた。私の言葉が足りなかったのがいけないが私にとって「リアル」は本質が見たいだけでドキュメンタリーではない。そして「リアリティー」とも違う。「本物さ」ではなく「本物」。こんな風な映画の見方はおかしいが私にとっては一番大事です。

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ドキュメンタリーはリアルに近付いているような錯覚があるが、「リアル」はそこには存在しない。「映画」の中にしか存在しない。

この映画は「リアル」の限界だ。