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[コメント] スター・ウォーズ 最後のジェダイ(2017/米)

わたしたちはいつかは過去を捨てて未来へ歩きはじめなくてはならない。今がその時なのだろう。
イリューダ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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考えてみると、前作EP7は過去作のいいとこ取りのような、オールドファンに目配せしまくりのサービス作品だった。言うまでもなく、その前の三部作は前日譚である。本作に至ってやっと、スターウォーズサーガは三十余年ぶりに前へ進み始めたと言っていい。そしていつの間にか、ある一族の血の宿命の物語になってしまっていたスターウォーズを、まだ何者でもない、ただの若者の手に取り戻す作品でもあった。ラストシーンは明確にそれを観客に向かって表明する意図があったと思う。

この作品単体で見れば、正直お世辞にも出来がいい作品とはいえない。細かいツッコミどころは山ほどあるが、それよりも問題は特に前半部において見せ場、あとで作品を思い出したときに思い浮かべるようなシーンがほとんどないことだと思う。登場人物たちの作戦や意図はことごとく失敗し、一方でレイとルークはまだるっこしい禅問答を繰り返す。から騒ぎと迂遠な会話劇が交互に行われる展開に、「ちょっとこれは大丈夫なのか」と不安にならざるを得なかった。トリロジーの2作目というのは、ラストに向かって爆発力をためるために暗い展開になりやすいというのはわかるが、あまりにもカタルシスがなさすぎる。

面白いのは製作者の「伝説を破壊して未来に向かって物語を紡ぐ」という意図を、最も具現化したキャラクターは主人公のレイではなく、敵役のカイロ・レンであるということだ。ハン・ソロを殺し、レイアを殺しかけ、ルークと対決する彼はまさにわたしたちが愛した旧三部作を葬るための司祭の役割を果たす。ルークやソロのような英雄ではなく、ベイダーのような人間離れした悪役でもない、神話の時代を終わらせ新しい歴史の幕をあけるのはおそらく英雄たちに比べればはるかに平凡な人間である彼の役割なのだ。失礼ながら少々間の抜けたアダム・ドライヴァー の顔は、卑小なる地上人の苦悩や逡巡を表すのに必要だったのだ、と前作で多くの人と同じくカイロ・レンの魅力の無さを罵ったわたしは今にして思う。

そして「ここまでルーク(と旧三部作)を貶めて大丈夫か?」と製作者の身の安全が他人事ながら心配になってきたクライマックス、やっと最大の抜きどころがやってくる。多数のAT-AT( じゃなくて新型なのね)を前にたった一人で対峙するジェダイマスター、ルーク・スカイウォーカーの勇姿!正直「ジェダイってそんなことまでできたっけ」というような反則技だがそれはそれ。最期にきっちり一花咲かせてくださった。今際の際に、若き日のあの2つの太陽を見るシーンはやっぱり泣ける。(太陽の演出はEP3でもやってるので二番煎じではあるのだが)

というわけで、過去の栄光と呪いを振り切ったスターウォーズサーガがどのような結末にむかっていくのか、非常に興味深く待ちたいと思う…といいつつどこかで「まさかこれで今後半永久的に作り続けることができる、というディズニーの商売上の要請による新生なだけじゃあるまいな」という疑いとウンザリ感もちょっとだけあるのだが。

(評価:★3)

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