コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972/日)

私が男はつらいよシリーズで本作が一番好きな理由
イリューダ

男はつらいよをそれなりに見てきて感じるのは、とらやに集まる人たちと寅さんとの間の微妙な緊張関係である。とくに中期の作品以降では、おいちゃんもおばちゃんもさくらも博士も社長も寅さんに対してやや怯えている。あるいは腫れ物に触れるように扱っている。寅さんの勘違いや先走った思い込みを指摘して機嫌を損ね、カタストロフが起こることを恐れているのだ(しかし往々にしてそれは起こる)。そこに生じるすれ違いをコメディとして楽しむのが正しい楽しみ方なのはわかるのだが、私には少々それが息苦しい。「寅さんのような人が本当に身内にいたら相当に迷惑だ」とはよく言われることだけれども、それは作品をあえてリアルに見るひねくれた感想などではなく、作品中ではっきりと描かれている関係性なのだ。

ところが本作において中盤に描かれるとらやでの団欒シーン、寅さんが恋愛について一席ぶったあと、誰がしあわせかについて口論(というよりじゃれ合い)になって大騒ぎになり、米倉斉加年演じる「先生」が苦情を言いに来るまでの場面にはそういった屈折がまったくない。寅さんがおどけてさくらが笑うのだが、まるで本当に倍賞千恵子が笑いをこらえきれていないかのような自然さだ。多幸感に満ちている。実は彼らが屈託なく本音で喋り、みんなにこやかに楽しいままというのはとらやにおいては非常に珍しいのだ。

私は男はつらいよシリーズのそれほど熱心なマニアというわけではないけれども、子どものころからとらやの人々にはどこか映画の中の登場人物ではなく、本当の親戚のような親近感を抱いていた。そして懐かしい親戚の家の最良の思い出のようなシーンが、あの何気ない団欒の短いシーンなのである。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。