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[コメント] ルース・エドガー(2019/米)

「同じ箱の中にいる」
プロキオン14

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







かなり怖い映画。「どう見たか?」によって感想が全然違うだろう。私はやはり「大人目線」で見てしまった。そうすると、ルースという少年が「得体のしれない」うすら寒さを感じるのだ。多分だが、そういう眼で見られることを想定して制作されているんだろうと思う。そして「大人×子供」的な単純な構図では語れない、重たい展開で話は続く。

これを少年目線で語るような、YA映画的に描くことだってできると思う。ルースの苦悩を、彼の目線で「大人は判ってくれない」と訴える。そういう映画もたくさんある。でも、そうじゃないから、怖い。いや、「子供の気持ちが判らない」なのか?

少年目線で語ったら、「傲慢な教師に、一杯食わせて追い出した!」という、爽やかな青春映画になるのかも。

養父母とルースも。両親にとっては自慢の息子。限りない愛情を注いできた、それは間違いないだろう。しかしルースは「息ができない」という苦悩をぶちまける。そういう親子関係に苦悩する映画もたくさんある。よくあるのは、ぶちまけて、ぶちまけて、全部気持ちを吐き出して、その上で真剣に親子が向き合って、本音で語り合って、判りあって、「本当の親子」になる、的な。

でもルースには言えなかった。「優等生」になるしかなかった。「♪言いたいことも言えない こんな世の中じゃ POISON」とばかりに、彼は「毒」を使った。そしてウィルソン先生を学校から追い出した。そのあとに、ひとつ「気になる」シーンがありました。

どういう気持ちで、ルースはウィルソン先生の家を訪ねたのだろう?マウントを取った「勝者の余裕」だったのか判らない。でも「花まで買った」のは、「嘲笑いに行った」と私は感じた。先生は生徒たちを「型に嵌める」という。それは間違いないだろう。ルースに「優等生」を押し付けていたのも。ただ、「なぜそうしたか?」というところでは、「一理ある」とも感じた。

「私たちは同じ箱の中にいる」。その言葉は、やはり先生が今まで生きてきた中での「経験」から生まれた言葉だと思う。その経験は、苦く辛いものだったということは想像に難くない。

その前、ルースが先生の部屋に上がり込んで目にした「落書き」に、「ひどい・・・」という言葉を発したのも、私は素直な気持ちだったと思う。自分のした所業が「白日」にさらされたのを実際にみて、たじろいだんじゃないかと。嘲笑いに行ったはずなのに、目の当たりにして慌てたのでは?

そしてルースと先生の短い問答。「同じ箱の中」、この話は、例のレポートが出たときに、母にチクるんじゃなく、直接ルースに真意を聞くべきだった。その時どういう反応をするか判らない。より不信が募るだけかもしれないが、こういう結末にはならなかったんじゃないかと。

もうひとつ、今回ルースが仕掛けた「策略」は、いつか彼自身にブーメランになって還ってくる気がする。どういうつもりでステファニーが協力を申し出たのか知らないが、今回は「愛するルースのために」協力したが、いつまでも協力するとは限らないし、彼女が「性被害」に遭ったのは事実だとしたら、その記憶からいつまでも救われないし、そんな彼女を「共犯」にしたのが、すごく気になる。

ナオミ・ワッツとティム・ロスは『ファニーゲームUSA』に続き、夫婦役。もうちょっと幸せな夫婦になってほしいなぁ。

(評価:★4)

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