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[コメント] ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ(2020/日)

こういうものに★5をつけるのはちょっと躊躇うのだが、はからずも泣いてしまったので、ムヒカ氏の言葉をわたしもよく考えてみたいと思います。(レビューは、超長文になってしまいました)
プロキオン14

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ムヒカ元ウルグアイ大統領。2012年にブラフルで開かれた国連会議のスピーチは、あまりにも有名で、全世界に「その言葉」は伝えられた。そして日本では「絵本」になって、子供たちへとその言葉を受け継ごうとしている。

「貧乏な人とは、少ししか物を持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」という言葉だけが独り歩きしていた感もある。貧乏が幸せみたいなイメージで捉えられてしまっているが、そうじゃなく、「欲しいものをドンドン買って消費してゆく」ことを全世界で同じようにしたら、あっという間に資源が枯渇してしまう。そういわれても私たちは「世の中は欲しいものであふれている」という時代を満喫してしまっている。

今公開中の『100日間のシンプルライフ』という映画も、たくさんの物に囲まれた主人公たちが、一度それを「すべて」手放したときに、はたして「本当に必要なもの」がどれだけあったか、ということを改めて浮き彫りにするような内容だった。

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と、いうような事を「前置き」にして、この映画は始まる。この映画では監督の田部井氏が、テレビ番組(多分、Mr.サンデー)の命令で、2015年2月、在任中のホセ・ムヒカ大統領にノーアポで突撃取材をするところから始まる。結構失礼な話だ。これが日本のTV局だ。面白い絵とリアクションが撮れたら御の字みたいなノリで「ウルグアイに行かされた」→命令とはいえ、田部井氏に同情する。

ところが意外にも、ムヒカ大統領は快く受け入れてくれた。「絵本」になっていることも知っていた。突撃取材にもかかわらず、ちゃんと対応してくれた。一歩間違えば国際問題になりかねない事態だが。調べてみたら、ムヒカ氏と「日本」が、意外な縁で結ばれていたということが、途中で明らかになる。

ムヒカは若いころは、ウルグアイの当時の独裁政権に反抗する組織で活動し、ゲリラ活動で4度も投獄され、瀕死の重傷を負ったこともある、なかなかの武闘派。最後は妻となるルシアさんと12年も投獄された。解放された後、政治活動をはじめ、議員を務め、2010年から5年間、ウルグアイの大統領を務めた。その間に犯罪組織の資金を断つために「大麻の合法化」なども彼の活動。

退任したムヒカ氏は、住み慣れた古い自宅で、妻と暮らしていた。そこへ田部井氏が再び訪れてインタビューをすると、彼は自宅でいろんな農作物と併せて「菊の花」を栽培していた。ウルグアイにはほかの南米の国へと同じく、日本から大勢の移民が渡っていた。その日系の方々が、昔からムヒカの近所にも移り住んでいて、菊の花などを栽培して生計を立てていた。その縁で、ムヒカも若いころから花の栽培で収入を得ていたそうだ。彼にとっての「日本」とは、よく働いてウルグアイの地に根を下ろした日系の方々の「生き方」が根本にある。ペリーの本とかも読んでいたし、日本について想像以上に勉強しているのだ。

話がそれたが、田部井氏はムヒカ氏と親交を深め、夫妻を日本へ招待することに。日本を訪れた元大統領の言葉一つ一つが、結構「耳の痛い」話だ。東京の街でみかけた宣伝広告に「欧米のモデルさん」を起用しているのを見て、「日本にも美しい人はいっぱいいるのに、なぜ欧米のモデルを起用するの?」と単純な疑問を投げかけた。これは昔からある日本のコンプレックスだろうと思う。そういうものを見透かされてしまった。

そしてどうしても訪れたかった広島の原爆資料館など、各市を精力的にまわり、最後に大学で講演会を開く。ここで話したことに私は泣いてしまった。ぜひこれは実際に映画を見て、その言葉をどう思うか、皆さんでも考えてほしい、そう思いました。

田部井氏、お疲れさまでした。最初は困ったと思いますが、立派に「形」として残すことができていると思います。できれば「鬼滅」を見た人の1000人に一人でも、この映画を見てもらえたらと思います。

(評価:★5)

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