コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] モンスター(2003/米=独)

一言でいえば居心地が悪い。それはこの映画の面白さであると同時に、ウィークポイントでもあると思う。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







その作りが意識的か無意識かはともかく、ひとつ思ったのは、これはこの事件についての一般の報道に触れているという前提があっての映画、という感じが少ながらずする。個人的に居心地の悪さを感じたのは、まさにその部分。あれだけ熱を入れて描きながらも、それでもまだ何かが見えない、というもどかしさが終始付きまとった。

全編「悲しみ」に覆われている。アイリーンとセルビーのどんな欠点を描写する時でさえ、そのどこかに悲しみの視線を交えている気がする。そこに悲しみがあること自体には問題はないかとは思うが、一方的に「悲しみ」の視線で終始描かれていることが、個人的にはどうにも居心地が悪い。冷徹とまでは言わなくても、もっと「俯瞰」をできなかったのだろうか、と思う。訴えるのではなく、滲み出てはじめて悲しみを等身大に知ることができると思うのだが。『レイジング・ブル』にあったものが、この映画にはない。

そこで思ったのは、この事件の世間の報道に触れていれば、それに対してこういう視点があるという認識ができて、そこまで違和感を感じなかったのかな、と。実際鑑賞している間、ずっとそのことを考えてしまった。例えば具体的に実際の事件報道等を並行して挿入しつつ、その落差を意識的に提示する方法などもあると思うが、何かそのような誰が観てもわかるような作りにはできなかったのだろうか。

最後に、この映画を観て思ったこと。そこに男がいる限り、そして社会がある限り、娼婦という職業は無くならないだろう。好きでとか仕方なくとかは別にして、彼女たちは確かに何かを引き受けている。それで社会もある程度、表向き正常な顔をしてられるのだ。職業に貴賎はない。そして、「工場で働く」ということも同じように。そんな単純な話ではないしキレイごとなのかもしれないけど、それでもアイリーンにはそう思って欲しかったと、心から思う。

(2005/12/23)

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)Orpheus サイモン64[*] おーい粗茶[*] ボイス母[*] トシ わっこ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。