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[コメント] 父ありき(1942/日)

泣いたカラスが・・・
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







離ればなれの寄宿舎生活を聞かされ沈みこんでる息子が、次のシーンに移ると何もなかったかのように寄宿舎仲間と仲良くやってるので、思わず笑ってしまった。

おそらく息子が成人してからの話に比重を置いた結果だとは思うが、成人に至るまでの話が、あたかも子供の柔軟な適応能力にあわせているかのように、急ぎ足の展開になっているのがおもしろい。

それにしても、何て可愛い息子なんだろう。不平不満をグっと飲み込んでうつむく姿。少しずつ成長して、それなりに貫禄も付いたりするのだが、父親に諭されると途端にそんな昔の姿に戻ってしまう。こんな描写がニクいほど上手い。離ればなれで暮らすことになった時の涙と、臨終の時にこらえきれずに肩を震わせて泣く姿。時が流れてもお互いを想う気持ちは何も変わらないんだなぁ、とそんなシーンを見るとつくづく思う。

とにかく息子は父が大好きで大好きで大好きで、父も息子が可愛くて可愛くて可愛くて。大っぴらに感情をぶつけ合ってるわけでもないのに、見てるこちらまで切なくなるほど気持ちがヒシヒシと伝わってくる。ひとえにそれは、さりげない描写の積み重ね。「コレ美味いから食え」と鉢を指す父、約束の時間よりも早く着く息子、息子の早い訪問を聞いたとたんに小走りになる父の姿、等など。何の屈折もないこの父子関係を「美談」と言ってしまえばそれまでだが、大抵の人が共感できる範囲内で描写を選んで積み重ねていってるので、絵空事という気がほとんどしない。というか、屈折しているコチラとしては(笑)なんとも心が洗われる。

国策のためにかなり脚本の改変を強いられたらしい。しかし小津世界のテーマや精神は全く崩さず、時代の要請とのギリギリの接点で渡り合ってこれほどの作品が出来るとは、素晴らしいとしか言いようがない。かえってその揺るぎない小津世界を再認識できる一本かもしれない。

(2002/11/17)

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (4 人)甘崎庵[*] ina RED DANCER[*] 埴猪口[*]

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