[コメント] ベニーズ・ビデオ(1992/オーストリア=スイス)
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ベニーが何とかして画面から実感を得ようとしているのが伝わります。境界を越えるのには、ほんのちょっとの引鉄でOKだったんだろうなぁ。しかし越えたからといって、体に血を塗りたくったからと言って、期待したほどの実感が得られたようには見えないけど。いかようにもドラマティックに演出できる映像世界と脳内世界に、感覚がかなり麻痺してまったのかもしれない。モノのように扱われる死体。
非常にタイムリーといえばいいのか、現代的な素材ではあるけど、安易な解決策など全く用意する気がないのが、やはりハネケ。むしろテーマとしては、前作の『セブンス・コンチネント』から引き継いでいるものも少なくない気がする。物質に囲まれた社会での人間的な感覚の喪失。金の遣り取りの描写や儲け話のエピソードなどが目立つのは、おそらくそういうことでしょう。
ということで、ラストにおいてのベニーが求めたものも実感、のようなものだったのではないだろうか。実感も待たずに性急に表面だけを取り繕う家族関係を前にして、壊せば何かが得られるのかも、なんて漠然とした気持ちからの告白だったのかもしれない。
しかし両親の反応が全く美化されていない分だけ、いやぁな部分が非常にリアル。子供とわが身の保身のない交ぜになった感情、そして実はベニーという一人の息子ではなく、彼らが必死で守ろうとしているのは、家族という集合体であることも伝わってくる。全てがとりあえず一段落付いた後での(だからこその)、父親の「愛している」のタイミングが絶妙です。その時の彼の精一杯の愛情表現だということも分からなくもないけど、ベニーが爆弾投げたくなる気持ちも分からなくもない、です。
後のハネケほどの得体の知れなさはないけど、彼のバックボーンが見えてくるようで、非常に興味深い一本でした。あと、後の彼のトレードマークとも言える「フレーム外の暴力描写」が出てくる最初の作品、なんでしょうか(違ってたらゴメンナサイ)。
(2007/2/11)
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