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[コメント] ゼロの焦点(2009/日)

おそらく監督が目指したのは「THE・日本海」な映画。安手の二時間ドラマに堕していった情景を取り戻すかのように、執拗に撮られる波のうねりに表れる。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







身を切るように過酷で、重い湿り気を含んだ空気。それが清張だ。それがかつての日本のドラマだ。という想いが伝わってくる。良くも悪くも。

時代の車輪の下敷きにされた無数の屍。そして新しい時代は到来する。あえて存在がどうにも浮いて見える広末涼子を起用したのは、意図してなのかどうなのか分からない。が、結果的には、その屍の記憶を持たない人間として、本来の物語の傍観者にならざるを得ない立ち位置を、浮かび上がらせていたような気がする(室田社長の「死を見てきた目だ。そういう奴は信頼できる」というセリフも、死にゆく社長が生きた時代の立ち位置を明確にしている気がする)。

新しい時代を生きたいと切望した憲一にとって、禎子の存在はどのように眩しく映ったのか。そして何より、ラストで禎子が佐知子に浴びせる平手打ちの残酷性。理由はどうであれ、同じ時代を生きていないからこそ、相容れないがゆえの平手打ちだったと思う。しばしば「現代」は「過去」に対して、その上に成り立っていることを忘れ、無邪気にそのような宣告を下すものなのである(ラストの現代のシーンが挿入されているのもそういう意味合いなのだろう)。個人的には、あのシーンがこの映画のピークだったような気がする。

しかし、そのテの社会性があまりに透けて見えるので、どうもこれを愛憎のドラマやミステリーとして観て良いのかどうなのか、いささか戸惑ってしまう。さらに演出面では、違和感を感じるスローモーションや、安手のホラーめいた殺人シーンとか、気になる演出も散見される。そしてやはり広末涼子のナレーションへの違和感もある。

ともあれ、社会派というか、一つの歴史のドラマとして観るべきなのかもしれない。けど、個人的には、謎を次々に提示しつつ、その果てには実はそんなドラマがあったのだ、というカタルシスを味わいたかった、というのもある。要はその「謎の提示」の部分の引っ張り方に、もっとケレン味やアクの強さがあっても良かったのではないかと。いささか淡々と流れ過ぎていた気がした。

(2009/12/4)

(評価:★3)

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