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[コメント] ゲームの規則(1939/仏)

公開当初数々の罵倒を浴び、20年以上たった修復版で絶賛、著名な映画人にそれぞれ全く違う言葉で賛辞を寄せられ今日に至る。果たして時代はこの映画に追いついているのだろうか?
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







初めてこの映画に出会ったのが10年ほど前。そのときの印象は、とにかくいろいろな人物が入り乱れて、魅力的なセリフの応酬にただただ圧倒された、といった感じだった。

どうしてもその構図の秘密が知りたくて、その後何度も何度も見返してるうちに、とても一筋縄ではいかないこの映画の多重構造が、少しずつだけど見えてきたような気がした。それはブルジョア社会の決まりごとに則った恋愛のゲーム。しかも規則を破ると死に至る恐れのあるゲーム。

とにかく圧倒されるのは人間の入り乱れかたで、そのさばき方も並外れてるが、それよりも驚かされるのが物語が常に何重かの構造をもって展開していること。前景と背景で全く違った物語が展開しているシーンも頻繁に現れるし、それだけでなくとも、愛情や友情を語るのと同時進行で必ず裏切りがあったりするのも、この多重構造をあらわすいい例だと思う。

よく言われる「悲喜劇」という形容もその多重構造故か、ただ悲劇的な物語を喜劇的な見方で描くという事よりも、喜劇と悲劇が常に入り乱れて進行している といった印象の方が強い。そして悲劇的な結末を迎えるのは規則から外れて自分の感情に忠実になってしまった人たち(飛行士。従者約二名は最後にまた規則に取り込まれる)で、喜劇の側に安住しているのがブルジョアの見えない規則に操られて、各々の感情にそぐわない振舞いをする人たち。その間をどっちつかずのルノワールが行ったり来たりしている。宴会のシーン等どっちも入り乱れて渾然一体となる瞬間もあるが、おおまかな構図はそんな感じだと思う。

ルノワールはブルジョアの主な登場人物を描くのに際して、個人の感情が常に社会の決まりごとに振り回されている(そしておよそらしくない行動をとってしまう)側面を見ている。そしてそれは様々に散りばめられた要素(からくり人形、自動ピアノ、劇等)でさらに強調されている。数々の名セリフも、そんなしがらみの中から生まれてきた信条といった匂いが濃厚。

以上が今の時点でこの映画を理解できたと思えることだが、厄介なことにそれだけでは済まされないのが困りモノ。監督曰く「これは戦争の映画なのに。戦争のことがこれっぽっちも描かれていない」。そう、考えてみれば第二次大戦前夜のお話なんですよね。ウサギが痙攣して死んでいくシーン、死の舞踏・・・考えてみれば死のイメージが時折見え隠れしているし、前記の構造がそのまま戦争に至る構造に置き換えられそうな気もする。が・・・やっぱりちゃんと理解するには至ってない。

さらには双眼鏡越しの視線のシーンから、トリュフォー氏が「映画に対するオマージュ」なんて言ってたりもしている。思えばこの映画の中のカメラも縦横無尽な動きをしてたっけ。そこらへんの秘密もまだよく解らない。他にも言葉にできない数々の魅力を発散しているので、当分はまだ見続けていくと思う。

数々の魅力的な謎を残す映画。言ってみればいつまでたっても全てを見せてくれないツレナイ恋人みたいなもんで、こういうのに限っていつまでも振り回されたり, 気がついたらトンデモなく愛着を感じてたりするんだよなぁ・・・・。でもそういう生涯の伴侶の映画に一本でもめぐり逢えたことを幸せに思ってマス。もうこの映画だけは別格。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (13 人)ぽんしゅう[*] 動物園のクマ[*] 3819695[*] モノリス砥石[*] crossage ペペロンチーノ[*] muffler&silencer[消音装置][*] ジョー・チップ やどわーど なつめ[*] tredair[*] ina Yasu[*]

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