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[コメント] 五人の斥候兵(1938/日)

窮屈な時代に作られた小品ながら、戦意高揚とはまた別に、自らが描きたいことを選びキッチリと焦点を絞っている点では、評価すべきかと思われる。
くたー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







このようにこじんまりとした背景を選び、戦闘シーンを五人に絞って描いているのは、あくまで見方同士の心の交流に主眼を置いた結果。木口が行方をくらましてから、再会を喜び合うシーンまでがこの映画のクライマックスであろう。他のどのシーンよりも時間をかけ、兵隊たちの心の動きをきめ細やかに描いていることでも、それは明らかである。

そして味方同士の心の通い合いは、一つの国の下の団結ということよりも、あくまで人と人とのいたわり合いという面が強調されているように思える。食べたいものを羅列するシーンでかすかに匂わす郷愁。哀愁漂うラッパの音色。タバコの分け合い、回し吸い。仲間同士の取るに足りない戯れ、軽い笑い。そして何より仲間の死を悼む心。ここでの兵士たちは、全てにおいてまだ「正気」を保っている。戦争自体がまだ小さな火種だった頃だからこそ、こういった描写も可能なのかもしれない。

そして映画は「全てを岡田(隊長)に預けてくれ」というセリフを合図に、一斉に歩みを進めつつ幕が下りる。希望に満ちた描写が、その行進の先に何が待っているかを知る今となっては、全く違う感慨を抱かせる。それは意気揚揚と歌われる「海ゆかば」の旋律が、その後泥にまみれ血にまみれて、苦渋に満ちたものになっていくのと同様に。狂気の時代への突入。そしてこういった想像が可能なのも、ひとえに戦意高揚を脇に置いた抑制された描写の賜物。敵が得体の知れない形でしか画面に登場しないが、それこそヘタに憎々しい姿で現れるよりもはるかにマシだと思う。

それにしても詩情豊かな一つ一つのシーン。戦闘シーンでの草木や水の波紋にさえ、詩情が滲み出てくる。監督の視線のやさしさの表れなのかもしれないが、キレイ事では済まされない事態なだけに、できることならまるっきり違う題材でその詩情を味わいたい、とも正直思ってしまう・・・。[3.5点]

(評価:★3)

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