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[コメント] おくりびと(2008/日)

出逢いがあれば別れもある。大きなサイクルで言うと、誕生が初めての人々との出逢いであり、死は最後の人々との別れである。そういう繰り返しを過ごし人間は進化し、今ここに僕たちがいる。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







葬式は死者のためというより生者のための儀式である。残った者が心を癒すために営む儀式であります。だから、納棺もある意味生きている者たちのための儀式なのであります。誕生があれほど人たちから喜ばれ祝福を受けるのに、死が忌み嫌われるのは日本では特に神教の影響からか「穢れ」というもののイメージがあるためではないか、と思う。

映画ではそんな死を職業としている本木に幼い時の友人、そして妻までが「けがらわしい」から職業を変えろと注意する。子供が学校でいじめを受けるかもしれない。バスでは匂いがすると女子高校生から嫌がられる。それらはすべて多かれ少なかれ死に対する日本人の「穢れ」の考え方が影響している。

でも、どんな金持ちだって学者だってみんな生まれそしていつかは朽ち果てていくのだ。誕生だけが喜ばれ美しく、死は疎んじられ醜いということはないと思う。生と死は一対のものなのだ。人は死んでその後に新たに生まれる人に何かをバトンタッチするのだ。宇宙の大きなサイクルの中では日常的にそういうことが行われている。

映画はそんなまさに日常的な「死」を残った人たちのために送る儀式をすることにより、生者が死者を乗り越えようとする、その時を描き続ける。この納棺師はまさに死者と生者とを繋ぐ心の架け橋のような職業の人である。

映画ではいろんなエピソードがそれぞれ胸を打つ。観客はみんな、自分の経験を映像に託し見つめている。未経験の人は死の真実に驚き、おののく人もいるであろう。人間の旅路の終わりを描いた映画ではあるけれど、生き残るものにとっては今からが新たな旅路の始まりでもあるのだ。

映画はコミカルな部分も多く、また映像が実に美しい。また俳優陣の渾身の演技で、はかないようで確かな死を捉えている。納棺師の作法は実に能のように美しく死が決して穢れるべきものでないことを伝えている。日本映画、傑出した秀作を輩出したと言える。この映画との出逢いは僕にとっては大きな人生上の膨らみとなりました。

ただ、一つだけ言わせてもらえれば、ラストの余貴美子の打ち明け話は琴の糸のようにピーンと張ったバランスを崩すような饒舌さで、出来ればなかった方が良かったように思う。それでも、十分この映画の秀作振りを崩すことはない出来栄えであることは間違いない。久々に世界に誇れる映画を輩出した感があります。

(評価:★5)

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