コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 愛を読むひと(2008/米=独)

ほぼ原作を辿っているこの映画は綿密な、そして深い陰影のある描写の連続で、映画として実に見ごたえのある作品となっている。少年と、若さにも翳りが見える女性との恋愛は映像化しやすい内容で、切れのある演出を伴ってすこぶる心地よい。
セント

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







原作との違いはテーマを恋愛1本に絞ったというところでしょうか、、。映画でもホロコーストの恐怖、携わった方の罪悪感についての描写は多少存在したが、それでも希薄な内容であった。やはり映画は2週間ほどのほとばしる愛の経験が一生、男女に影響を与えてしまうその強さ、哀しさ、空しさを流麗に描いている。

以下、ネタバレです。

自分の運命を賭けてまで文盲を隠したかった女性は、裁判中愛した男の視線を常に感じている。男が女性の文盲に気づいて減刑を訴えていたとしたら、その瞬間には女性は男に対して猛烈な怒り・憎悪を覚えるであろう。

しかし、それを裁判で証明しようとすると男は女性との関係を世間に吐露しなければならない。ここに男のエゴが発生する。女性の名誉のために(文盲)敢えて踏みとどまるという美名の元、男は女性との愛を隠そうとする。

結局は男のエゴ以外の何者でもないことを女性は知っている。何もかも壊れても一つの愛を得たかったはず。女の本当の心情はそういうものである、と僕は思う。

裁判の過程で男との愛を成就できなかったことに気づく女性は無期懲役の刑に服す。しかし服務中でも男は会いに来ず、相変わらず偽善的(偽愛的)朗読者として男は存在し、傍観者ぶった逃げを図っている。女性が出所する間際に初めてしぶしぶ会いに行くが、男は女性が差し出した手さえ触ろうとしない。

男は歳月は経っても変わりはしないのだ。相変わらず保身的でエゴイズムそのものの男の存在。女性は絶望し、自殺する。ホロコーストの罪の意識で自殺するという解釈も成り立つが、この映画は愛の映画だ。女性は愛の終焉を男の卑劣な態度で見てしまったのだ。

映画では自分の娘に過去の愛の話を告げ始めるところで終っている。この部分は原作にない部分で、明らかにおかしい。父親の無情さを知ることになる話を男は娘にするだろうか、、。西洋のよくある映画的ラストに拘りすぎたかなあと思う。

この映画は真実の愛を求めた女性と(エゴに気づかない)現実そのものを受け入れすぎた男との哀しい愛の世界というべきか、、。そういう意味では世の中によくある、結構普遍的で、卑近な愛の姿でもありますね。

俳優陣はキャスティングもこれ以上にない二人だけの世界を構築し、立派。演出もすみずみまで秀逸。映画的には言うところのない出来。ただ、哀しい愛といって美化した男のずるさが残滓となって僕の心を覆っているのに気づく。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)kiona[*] まりな m-kaz IN4MATION[*] ミキ けにろん[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。