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[コメント] 17歳の肖像(2009/英)

秀作ですね。こういう映画を秀作というのでしょうね。でも話自体は50年前の時代設定ということもあり、いかにも青春のある一線を超える瞬間を描きつつ、過去のある時代をイメージ付けてしまう。
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**ネタバレ注意**
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映画というのはいつの時代を描こうが、今を描かねばならないと僕は思っている。で、この映画は50年前のイギリスの社会情勢、文化、衣服に到るまで完全に当時に遡っている。階級社会であるイギリスは日本のようにいい大学を出たからと言って自分で人生を切り開くことは難しいとも聞く。ましてや、50年前、ビートルズも登場していない時だ。(ビートルズ登場の意味はイギリスにおいては特に社会的に大きい現象だ。)

そんな時代で、17歳の眼から見える人生はまさに窮屈だ。お金がないことが自分の将来さえ脅かすものだということを彼女は知っている。両親さえオックスフォードに行ける学力を持つ娘に何を血迷ったのか、アブナイ男とも見極められず結婚を許してしまうぐらいである。

人生においては誰もが、映画のような一線を超えるような瞬間というのは絶対存在する。それが10代前半であったり、後半であったり、人によっては20代後半になって初めて訪れる人もいるだろう。映画は、特に青春映画はこのような新鮮な素材を常に主題として我々観客に提供してくれていた。

しかし、特にこの手の題材は敢えて最近の映画では少なくなったように思う。その意味でこの映画は新鮮でさえある。しかし、主題自体は手垢のついたものであるということも認めなければいけないし、本当にヤングの間でこの映画の良さが受け入られるかどうか、僕は多少気になる。

この映画では両親も娘同様すっかり騙されてしまうというところが後々驚愕に値するものとなっている。それほど中流の下クラスの家庭では何かなければ生活自体を変えることは出来ないのであろう。

この映画の主題でもある教育ということを考えれば、最後で彼女が結局頼ろうとした退屈なハイミスと称したクラスの担任の存在がきらりと光る。あれほど彼女から侮辱されようがちゃんと人間の本来の教育という行いを実践したのである。彼女も痛い思いをして初めて教育者の存在を感じ取ったのだろう。

演出は隅々まできっちりと揺れのない完璧さを感じる。揺れる17歳を演じたキャリー・マリガンも立派だが、ほとんど静的な演技を要求されたピーター・サースガードの深く広がりのある大きな演技は息を呑んでしまった。両親を始め、大人の世界での友人役だった俳優陣も特筆ものの演技。完成された映画だと思う。

でも、最初に戻るがこの映画を見て、いくら青春は時代を超越するとは言っても、少々古臭い印象が残るのである。何故この映画が現代に必要だったのか。 現代に昇華する何かが不足しているように思えてしまったのは僕だけだろうか。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)Orpheus けにろん[*]

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