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[コメント] アイガー・サンクション(1975/米)

空撮において『サウンド・オブ・ミュージック』の冒頭のシーンを越えたかもしれない。 高所の不安とストレスを的確に表現した演出は見事であり、スターでありながら孤高の人であることを志向する監督の人柄もよく分かる作品。
ジョー・チップ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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イーストウッド監督は「前半準備編」「後半本番編」と映画が前後できれいに分かれている手法を時々使う(『ファイヤーフォックス』『スペースカウボーイ』など)が、ミステリー仕立ての本作では伏線の張りようもなく、無理があったようだ。大体「犯人探し」がテーマなのにその容疑者の面々が1時間以上経ってやっと登場するのだから、もうストーリーに興味がないと言われても仕方なかろう。

しかしながら、イーストウッド監督の演出の冴えを堪能するには最適な映画と思われる。

登山を描いた映画は色々あるが、大体がいきなり本番というのが多く、この映画のように練習段階から描いているものは商業映画では珍しい。しかも「上へ登る」という行為はイーストウッドが建物の壁を伝って登るところからすでに始まっており、そこから、登山学校でのトレーニング、石柱登りへと、イーストウッドと共に徐々に高所に上っていくという感覚を醸成させていく。映画において、高所は人を不安にさせる要因であるが、アイガー北壁登攀に及ぶと今度は「犯人と行動を共にしているかもしれない」という不安と相まって、見る者のストレスは高まる。

その不安とストレスの「醸成」の結果、我々は逆に「落下する」ことに快感を感じてしまうのだ。イーストウッドは吹き替えなしで自らザイルを切ってみせることで最高のカタルシスを演出する。

また、周囲には援助者がいるのだが見守るだけであり主人公は孤立無援で奮闘せざるを得ない、という状況もイーストウッド映画では普遍的に見られる主題である。遭難しかかっている登山者を観光客が望遠鏡で悠々と見ているというシーンは、そのテーマを視覚的に分かりやすく描いている。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (9 人)ぽんしゅう[*] Orpheus 緑雨[*] 死ぬまでシネマ[*] おーい粗茶[*] ナム太郎[*] 3819695[*] ゑぎ[*]

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