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[コメント] 千と千尋の神隠し(2001/日)

ノスタルジー。日本人としての私と、世界。
peacefullife

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







冒頭、描きこまれた絵の美しさと描写の細かさにまず目を惹かれた。

アウディを少々飛ばしすぎに運転する親父、ABSがしっかりと働く。ブレーキペダルを踏む足が“ズズズズズッ”と反動で押し返される描写には少々ぶったまげた。

そして、薄暗いトンネルを抜けるとそこには、いつか忘れてしまった故郷が広がっていた。

そう、忘れているのではなく、思い出せないだけ。10歳の頃の私には、まだ八百万の神が見えていた。自然界のいたるところに「カミ」が居たのである。

油屋での光景を見て、「どうしてかわからないけれど物凄く懐かしい思い」に満たされる心。それは、カミと接していた頃の、思い出せない記憶を揺さぶられているからである。

そんな思いがした。

「この世には唯一絶対の神がいる」と教えられる世界に住んでいれば、この感覚というものは生まれないではないかと思う。木のカミがいる、川にもカミがいる。箸にだって、楊枝にでさえも、カミが宿っている。そうやって、まわりのあらゆるものに「神秘」を感じていた子供の頃の心。なにかが「いる」。そう思った心。そんな感受性が豊かだった頃の自分が、開始僅か10分の間に心の奥底から浮かび上がってくる。

DVDを買った。予約していた訳でもないのに「おにぎり」をゲット。「おにぎりを食すシーンで泣いた」人が多いらしい。なるほど、おにぎりを食べるところは貰い泣き的感覚の涙が最も溢れやすいシーンだと思う。しかし、私はこの映画はむしろ「全体を通じて今にも涙が溢れそうな感覚」を覚えつつ、流れ出るまでには至らず、涙を湛えつつ見るといった具合であった。

どこか懐かしく、忘れてしまっているのではなく、思い出せない世界。

リアルな10歳としてでなく、私の中にいる、思い出せない10歳の頃の自分が観ていた。

(評価:★4)

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