自分自身に関するごく基本的な事柄、例えば、出身はどこか、名前はなにか、職業は、家族構成は、などなどをすっかり忘れてしまった男(マルック・ペルトラ)は、何のつてもなくやってきた難民とおなじ。ひとつだけ違っているのは、フィン語がはなせることだったかもしれない。難民にはそれなりの救援体制が設置されているかもしれないけれど、記憶と、身分証明書をなくしたフィン人には．．．。

コンテナで暮らす人たちは、貧しく、優しかった。電気さえ引いてないハコ(コンテナ)だけを貸すのに法外なカネを貧乏人から巻き上げる警官や、やたらと冷たい職安の男みたいな人がいるかと思えば、未払いの給料のために銀行強盗を働いた元社長のような人もいた。

イルマ(カティ・オウティネン)と出会い、薄紙をはぐように自分を取り戻していく男の姿がいい。何かが変わり始めそうな、僅かな希望の灯をぽっちりともすような結末も良かった。この人間賛歌は、とてもいい。でも、なにかしら不満が残る。わさびが足りないっていうのか．．．。