[コメント] ノーカントリー(2007/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ハビエル・バルデムの怪演。彼が部屋のソファに座り待ち構えていた時、身を投げ出したい衝動に駆られた。自分が怖かった。決して逃れられない恐怖に遭った時の、体の固まり、戦わず諦めた時に感じる安堵。自身が感じたその感覚があまりにリアルで、何て恐ろしいのだろうと思った。怖がらされてはいない、単に怖いのだ。
この映画は緻密に作り尽くされていた。ホテルのシーンは秀逸。取られず鳴り響く電話。近づいてくる足音。明かり。消される明かり。飛び出し、戻る。ホテルの構造に震えが来た。
流れる血が本物だと思った映画も初めてだ。靴下でひたひたと歩き、血で濡れた靴下をぺしゃりと脱ぐ。そして、流れる血が付かないようひょいと足をベットに上げる。その一連の血の描写にも徹底したものを感じた。
おもしろい! なんて言う映画じゃない。けど、凄い。この映画には血があって、骨があって、肉がある。その肉もただの肉ではなくて、神経も脂肪も筋肉も通った本物の肉だ。凄すぎる。恐ろしい。なのに目が離せない。緊迫したやり取りの後に訪れるあっけない結末にも現実そのものだ。映画を観たのではなくて傍観者にさせられた気分だ。
蛇足だが、シガーが怪我し、ズボンを切り裂き手当てをするシーンで、彼がブリーフを履いているのを見たとき、震えた。もし彼がここでもっとお洒落な下着を着ていたならきっと興ざめした。怖くなかった。けど、その下着は彼の偏執的なイメージにピッタリで、こんな細部まで徹底し尽くされた世界が恐ろしくなった。
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