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[コメント] 太平洋ひとりぼっち(1963/日)

単独航海で太平洋横断を果たした堀江謙一さんの偉業を映像化したのは良いのだけど、私は、スクリーンの前で独りぼっちを喰らい、単独後悔で帰路を乗り切り家に到着した。おもいっきり石原裕次郎プロのノベルティグッズな出来。
ジャイアント白田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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堀江謙一さんの功績は素晴らしいの一言に尽きる。卒業旅行ヨーロッパ一周7泊8日または、日本海2泊3日蟹食べ放題ツアーといったたぐいの自分探しの旅とはレベルが格段に違い、得るモノも比較できないだろう。堀江謙一さん自身が経験したうえで語った言葉に強烈なパワーがあるので多少力不足な映像でも作品として成立してしまえる。これは凄い。

でもなぁ…

喰わず嫌いではなく、様々な裕次郎映画を見た上で私は石原裕次郎が好きではない。独善的だが裕次郎その人は、主人公の器とは思えないのだ。で、案の定、今回もご多分に漏れずに少なくとも私の太平洋以上に広い心の中では裕次郎の無謀な冒険は題材どおりに成功とはいかなかった…。

さらに、市川崑監督なので多少はヒッチコックの『救命艇』みたいな感じか、それ以上かもしれないと期待していたのだけど、プロジェクトXで同じ題材を映像化したのと勝負すると3馬身差以上のさが開くのは必至だろうと感じさせる内容とは思いもしなかった。あまりにも軽すぎやしないか?一言で片づけるとするならば、1962年の出来事を早急に映画化する事だけを考え、あまり脚本を錬らなかったツケだろう。

関西弁が似合わない板に付いてない、あの軽い裕次郎の声と田口トモロヲのナレーション時の声の二つを、水上置換法で個別にピックアップして解剖し双方を比較して見ても、一目瞭然だと思う。市川崑色と裕次郎色が巧いこと交ぜ合わさったら良かったのに、「俺のプロダクションが作るんだ!俺の言うことに従え!」みたいな裕次郎色が強すぎたのだろうか。典型的な自信過剰気味ワンマン社長が鎮座する大会社(有利子負債2兆円強)の滅びる一歩寸前かと思うほどの出来とはあんまりだ。という印象。

で、この映画のポイントである、“ヨット上で服を脱ぎパンツを脱ぐと思わせるシーン”の撮影時、「ここは失神者が出るところだからなー!しっかり頼むぞー!」と石原裕次郎がスタッフに言ったに違いない、5000点賭けてもいい。だが私はその場面を見ながら「ここに失笑者でましたー!」と心の中で何度も何度も大声でスクリーンに向けて自己申告してました。天国の裕次郎さんに届いてしまったかもしれないぐらいに。

でも、そんな落胆の中にいながらも私の羅針盤は狂っているのでズレた魅力を二つ見つけ、渋々感動した。

一つは、豪華な脇役陣を贅沢に使った豪遊さが目立たずに、逆に引き立たせるためだけで終えるはずであった豪華脇役陣が出る少しのシーンが、製作者サイドの思惑通りにいかずに大変面白くてプチ感動。

そしてもう一つは、船上で海と格闘する裕次郎の姿よりも、サンフランシスコに到着した裕次郎の姿が一番“演技”していたので感動した。いつも同じカラーしか出せない裕次郎の滅多に見られない“演技”だから余計に感動。アカを洗い流して、脱アイドルを果たそうとしたのだろう。アイドルには出来ない、ダサイ姿を悠々としてみせた演技は見事だった。

2003/3/20

(評価:★3)

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