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[コメント] イノセンス(2004/日)

とってもとっても壮大なスケールの、小さな小さな片思いのお話。
茅ヶ崎まゆ子

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画を恋愛映画としてとらえれば、異論噴出なことは明白であるけれども、私がそう思ってしまったのだから仕方ありません。恐らくそれは押井監督の意図ではないだろうし、大多数の観客もそうは思わないだろうけれども、恋愛映画だと思うのです、それも片思いの。

60億人も人口がいて、その中の特定の2人が恋愛に落ちる確率は奇跡に近いですが、この映画の世界では、個体としての身体はバラバラであっても、ネットワークという糸の膨大な集合によって、意思の疎通が今よりも格段に緻密になっている。それは前作『攻殻機動隊』も同じ。

なのに、主人公であるバトーは、(私にとって見ればの)片思いという感情を捨てきれずにいる。もちろん、それは消えた少佐への感情で、片思いという一言で片付けるのは短絡的ですが、生命や身体といった様々なテーマが内包されているこの映画の中で、その片鱗しか見えなかったとしても、私の記憶に植えつけられたのは、そこなんです。結局は片思いで終わる。

クライマックス、トグサの娘への人形を見るバトー。その電脳の奥では、自分のもとを離れて消えた少佐の姿がオーバーラップしているのではないか。リドリー・スコットの『ブレードランナー』は、ロマンスというオブラートにこそくるまれてはいたが、自分がレプリカントなのではないか・・・という曖昧な恐怖心を残して終わる。押井監督はこれを全否定し、あえて人間的な感情の高まりで映画を締めくくったのではないか。そう思えて仕方が無いのです。

結局のところ、私にとっては永遠に答えの出ない映画なのかもしれません。でも、それでいいと思います。

(評価:★5)

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