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[コメント] 仁義の墓場(1975/日)

こんなどうしようもない男と関わりたくは無い。でも、スクリーンを通してなら是非関わりたい。喧騒の時代に自己中に生きた犬の半生。誰でも興味湧くでしょう。深作欣二も、三池崇史も然りだったのだろう。 2005年1月27日ビデオ鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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戦後ヤクザとして有名な石川力夫を、巨匠深作欣二のダイナミックなバイオレンス演出、手持ちカメラで、戦後の喧騒と石川の自由奔放な狂気「仁義」と、「大笑い三十年のバカ騒ぎ」をぶったぎる。なんて生命感溢れるエネルギッシュな時代だろう。

当に人々が「生きている」時代。物資が乏しい中、力のある者が生き残る。中国人や朝鮮人、アメリカ人が入り乱れ、ヤクザですら選挙に立候補する、そんな無秩序で無国籍勘漂う。そんな戦後の混乱漂う時代を自由奔放に、ワガママ気ままに生きる男、石川。

杯を交わした親分を刺し、手前の恩人を撃ち殺す。無責任に女を犯し、惚れてる弱みに付け込んですき放題やり尽くし、挙句の果てにシャブで堕ちこぼれ、手前勝手に飛び降りて死にやがる。

そのくせ墓には「仁義」を掘り込む、その矛盾。

確かに映画としてみると、周囲の人物に感情移入してしまう以上、この石川には感情移入しがたい。だが、あくまでドキュメントとして、戦後60年が経ち、スクリーン(ブラウン管)を通してならば、是非ともこの謎めいた自己中男と対峙して見たいと思える、そんな男だと俺は思う。そんな男を映画として語る事は、作る側には最高のカタルシスで有り、最高の狂気であろう。

石川には深作欣二のパワーが込められているのだろう。そのパワーとは、街をひっくり返して、銀河系丸ごとぶち壊すほどのエネルギーに違いない。狂気のひきつける力、暴力のひきつける力。

何しろこの『仁義の墓場』は、今日本で一番エネルギッシュな監督、三池崇史ですらリメイクをした作品なのだから。

但し、やはりこの石川と言う男を描くに於いて、「戦後」と言う時代背景は必要不可欠なのではなかろうか。石川は戦後のエネルギーの中に居るからこそ輝いて見えるのではなかろうか。

今日日、落とし前は指落とすんじゃなくて金で解決するのが普通だ。そんな時代でこんな男を描くよりも、戦後の喧騒の中を腕っ節と手前一人で駆け抜けている姿を見る方が血が騒ぐのではないのかと、俺は思う。

暴力が秩序で、生きる事が全てだった時代。方向を見失い、アメリカに先導されながら、中国人や朝鮮人にコケにされながら、前に進んでいた喧騒の日本。

なんてエネルギッシュなのだろう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ぽんしゅう[*] sawa:38[*]

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