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[コメント] 戦場のピアニスト(2002/英=独=仏=ポーランド)

言いたい事はすべてNakamyura様が書いておられるので、かぶってしまう部分もあるかと思いますがご了承ください。一応個人的意見を述べます。自分は今、この映画に怒っています。 2003年2月16日劇場鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







素晴らしい作品。映像も音楽も文句無しの出来栄え。2時間半の長尺で飽きさせず、中だるみなく、美しく見せてくれる。その監督の職人技は見事の一言であり、カンヌで最優秀賞を受賞した理由もわかる。

内容的にも受け付けやすく、主人公の「生きる」という切実な思いが真っ直ぐに描けており、当時の現状も惨酷であるが、『プライベート・ライアン』の様に惨酷な映像を流し続けるのではなく、惨酷な行動を見せつける。

自分の隣に座っていた女性客は、ドイツ兵がユダヤ人の部屋に押し入り、「立て」と命令し、車椅子の老人が立てないのを見るなりベランダから突き落とす描写を見て思わず声をあげていた。ユダヤ人警察に、ランダムに選ばれ、捕まった弟を主人公が助けに行き、外で待っている時の、食料を奪おうとして毀れてしまった食料をすする男、子供を引き連れ「ハイル・ヒトラー」と陽気に歌いながら媚びを売る老人。その姿は生々しく、当時の、俗に言う「地獄絵」を傍観するのではなく、体感 させられる。

さらに収容所でも、行き先を尋ねただけで殺される現実(つーか、あの場で行き先を聞いたら殺されるって事くらいすでに理解できてると思うが)や、突然列からランダムに選ばれて前に出さされ、目の前で一人ずつ頭を撃ち抜かれる光景。

すべてが惨酷。隣の女性は、ドイツ兵がユダヤ人に何かする度に反応しているようだった。(自分は結構傍観していましたが^^;)

爆撃シーンの音も壮絶で、主人公が必死にドイツ兵から逃れ、廃墟と化したゲットーの中を一人でとぼとぼと歩いていく。

見せ付けてくる映像。とにかく、「残忍なドイツ兵」を前半で見せ付け、ユダヤ人の置かれた立場を観客に圧倒的映像で教え込む。後半になると、救いの手とばかりに優しいドイツ軍将校(?)が主人公を助け、さらに連合軍まで登場し、ユダヤ人に平和が訪れ、そして彼は演奏会でピアノを弾きながらエンドロール・・・・

戦争という惨酷な現実に対する監督の何かは充分伝わってくる。監督の実体験に、作者の実体験。こういう絶望的な状況で「生」への望みを捨てずに生き続けた主人公。そしてその主人公を通して絶望的な戦争を体感させる圧倒的な映像。

そしてそこにある、ただの善悪ではくくりきれない人間達のドラマ。

本当に傑作だと思う。真に心に訴えてくる話だ。

けど、だから何?

確かにユダヤ人警察の話が来た時には、話を断りあくまで「自分」を貫いていた主人公だが、結局その後は、かつて愛した女性や友人を頼りに点々と生き延びていき、挙句の果てには世話になったドイツ兵を助ける事も出来なかった。

劇中、少ない弾薬と人数にも関わらずドイツ兵に戦いを挑んでいたユダヤ人達が居た。彼らは粘り強く戦ったにも関わらず、結果的には殺されてしまった。が、そこで主人公は言う「僕も一緒に戦っていれば・・・・」

収容所から突然「逃げたい」と言い出し、今まで武器を密輸(?)しておいて逃げ出した主人公。ストーリーはその逃げ出して、知人に頼って生き延びる主人公を写していったが、その前に、主人公が逃げ出した後の収容所を見たい。

きっと彼らを逃がしたとして何人かは処刑され、全員数日間食事を抜かれ、過酷な労働を強いられていたに違いない。

しかし、彼らは戦って死んでいった。「生きたい」と心の奥底では叫んでいたにも関わらず、生きるよりも名誉の死、つまり自由を取り戻すための闘いに身を捧げたのだ。主人公のように生命的な自分を守る為ではなく、自分たちの魂を守る為に生き続けていたに違いない。だから、彼らはその後のドイツ軍との交戦でも粘り強く戦えたのだ。

しかし、主人公は自分が生きる為に逃げ惑う。そんな人間を2時間半も見せられるのだ。いくら作品が素晴らしくても問題は物語にある。こんな人に助けてもらってばかりで、生き残った主人公を「映画化」するよりも、彼らを映画化したほうがずっといい作品になったと思う。

話は実話であり、素晴らしい話だ。しかし、所詮綺麗事にしか見えない。テレビの特別企画だとかのドキュメンタリーだとか、小説だとかで観るなら少しは違う感想を持てたかも知れない。しかし史実であり、自分もその状況に直面したら主人公と同じように逃げ惑うかもしれない。

しかしこれは映画だ。なぜこの内容を全世界の観客に見せつける必要がある?当時のユダヤ人の置かれた状況を映像で体感する事はできたが、だったらなぜこの人間を描く必要がある?結局人に頼って生き延びて何も出来なかった人間を。ただ結果的に生きただけの人間を。

自分は本当の意味で生きる為に戦った人間の話を見たい。こんな映画で「感動の実話」だとか「衝撃の実話」とか言われても「所詮他人の人生、所詮綺麗事」としか受け取れない。

何度も言うが、確かに素晴らしい話だが、自分は支持しない。ただ人にすがりながら延々と生きてきた人間の話を延々と見せ付け、監督が「凄いだろ。俺はこんなに素晴らしい作品を作ったんだぞ」と呼びかけてくるようで腹が立つ。

何よりもピアノを愛しているのかすら疑問だし。まぁ、そりゃ生き残る為に仕方ないとも言えなくもないが・・・。

どっちにしろ傑作だが支持できない。

ちなみに、主人公がドイツ将校の前で演奏するシーンで少し主人公は躊躇うが、彼が演奏する喜びを噛み締めているのか、それとも単に寒さと恐怖で指が動かないのか、まさか指が演奏を忘れたのか(冗談)、のどれかだと思うが、正直、恐怖と寒さで指が動かないだけにしか見えなかった。

だからその後ラジオ局で演奏している彼も、舞台の上で演奏している彼も、どうも「生きている喜び」を演奏しているように見えず、何か映画の始まりの時と同じように「ボクの生きる道」的に演奏しているようにしか見えず全く感動できなかった(まぁその前の話の展開もあるが)

―――追加

ドイツ軍将校の前で演奏する時指が動かなかったのは栄養も満足に取れず、固まってしまっていたからなんですね。今更気づいた自分が情けない。

確かに、劇中弾いてる時、指の色が黒かったような・・・。

5点をつけた人も言いたい事も良く分かるが、自分にはどうしても、この主人公を主人公に置いた意図が掴めない。やるなら、本当に戦いぬいて、泥水を啜りながら、ただ自由と誇り、何よりも音楽の為にドイツ軍と戦う姿を見せて欲しかった。ちょろちょろと逃げ惑う主人公がラストで演奏する姿は感動的かもしれない。しかし、本当の意味で戦った人間が最後に味わう幸福こそ観客にとっての幸福じゃないだろうか?

何度も言うが、素晴らしい作品だ。映像、音楽、脚本、退屈させないだけの演出力。すべてにおいて一級品。アカデミー賞を受賞しても文句は言えない出来栄え。描き出した真実と、観客に訴えようとしている事は大体理解できるし、見ていて罪悪感というか、「戦争って嫌だな」だとか感じれば、正解かもしれない。

しかし、スクリーンで見るならどちらの方が説得力があるだろうか?逃げ惑って得た幸福か、それとも戦って得た幸福か。

しかも、それが無謀な戦いを挑み、それでも戦った人間の姿ならなおさら・・・

(評価:★2)

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