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[コメント] 8 Mile(2002/米=独)

エミネムという歌手自体、ほとんど知らない状態なのでよく分かりませんが。 2003年5月20日試写会鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







個人的に、ラップはあまり好きではないし、詳しくも無い。内容云々以前に、あれが歌とは思えないのだ。最近は大分わかっては来たとは思うけど・・・劇中の’バトル’の罵りあいは歌っているように見えず、ガキが「おまえのかーちゃんでべそ」と言い合っているだけにしか見えなかった。そりゃ、なんとか娘。の歌よりかは数億倍、否、比較する事すら無意味にも思えるほど良い事は確かだ。故に、ヒップホップが好きでもないのだから、当然エミネムなど知ったこっちゃ無い。知っているのは名前程度だ。彼がどうやってメジャーになったか、彼の音楽で彼は何を伝えようとしているのか、何も知らずにこの映画を見た。つまり「エミネム主演の映画」として見たのではなく、また「エミネムの半自伝的映画」として見たのではなく、「一本の映画」として観たという訳だ。

まず劇中の’バトル’の模様。あの雰囲気に完全にのまれている唯一の白人の主人公ラビット。相手はラップで自分をひたすら罵ってくる。俺にはそれが凄いのか凄くないのかすらよく分からない。なんでラップを使って相手を罵らなければならないのか?確かに、それはそれで凄いモノかもしれないし、俺には到底出来ない行為だろう。それに、そういう過激な「歌」の世界で、這い上がると言う事は並大抵の事ではない事は明白ではあるが、確かに「凄い」とは思うが、どうも共感と言うか、音楽にノレない。相手の中傷をすぐ思いつき歌に乗せると言う行為自体は凄いが、やっている事は低俗な物にしか見えず、どうも共感出来ない。

唯一、ラビットがクライマックスで決勝で歌ったラップが一番マトモだったんじゃないだろうか?相手が言おうとしている事を先に言い尽くしてしまう。しかもその裏にはきちんとした感情がこもっている。

別にラップと言う物を批判するのではない。ただ、’バトル’の内容に共感が持てない。何度も言うけど、劇中のラップを批判する訳ではなく、ただ自分に合わないだけ。個人的には、中傷するのなら身近な人間ではなく、社会的な意見と怒りを歌に込めてラップを歌って欲しかった。少なくとも、エンドクレジットで流れた曲は、劇中のラップと違い、きちんとメッセージみたいな物を持ったしっかりした曲であり、あれこそラップで歌うべき事ではないのだろうか?

ラップとは「モハメド・アリの口調」が原型とどこかで聞いたような気がする。多分、あんまり関係無い気もするのだが、そう考えると、やはりラップとはスタイルで歌う、格好つけて歌う物ではなく、魂を叫ぶ歌だと思う。怒り等を詩に込めて歌う。そこにラップの魅力があるのでは無いのかと思う。こういう言い方は不適切かもしれないが、だから、黒人の人たちから産まれたのではないだろうか?いや、黒も白も赤も黄色も関係無いだろう。やはり、俺達が持つ「怒り」とか「不安」とかを、叫んでくれるからラップには魅力があるんじゃないかと思う。だから、劇中の’バトル’には共感し難い。まぁ、ラップと言うのは他にも、言葉の「面白さ」と言うのか、言葉をテンポ良く積み重ねて、テンポを作るって言う魅力もあるのだろうけど。そういう点ではかなり面白い物だと思うけど、やっぱ「格好だけ」で歌ってるラップは好きになれない。

映画自体は、まぁまぁの出来で、可も無く不可も無くと言った感じだった。ただ、あの’バトル’で勝利した所で映画が終わるのは如何な物か。結局彼はスラムだけの人気ラッパーになれたのか、それともメジャーデビューを果たしたのか、その点をはっきりして欲しい。これじゃ、結局「’バトル’で勝つ」と言うだけを目標にした映画としても捉える事も出来、そういう点では「あらゆる瞬間にチャンスがある」という言葉の説得力が薄くなるのではないだろうか?この映画の主人公は「でかくなる(=メジャーになる)」と言う事を目標にしていると思うが、映画が「地区優勝」で終わったしまうと、主人公の夢が叶ったのかどうかが曖昧のまま終わってしまう。せめて、大観衆の前で歌っている(「lose yourself」を)シーンみたいな物をエンドロールのバックで流す等、彼が「チャンスを掴んだ事」を示してくれないと消化不良を起こしてしまう。っていうか起こした。

お陰で伝えたい事はよく分かるが、それが完全に伝わりきれているか否かはどうも曖昧なので、どうもこの映画の評価は少し難しい。映画自体の出来栄えは★4でも良いのだが、歌に共感出来ないと言うか、終わり方に納得できないと言う、マイナス点がかなり響く。特にラストは大切な物を忘れている感じがして、★4はつけ難い。何よりも、分かりやすい展開と硬派と言うか、王道的な展開で進んで行き、音楽、映像も割と良いというので、突き出た物は無い物の、メッセージなどを感じ易いという点では観易い作品ではあるのだろうが。

それに、映像から何かしら、もの凄い雰囲気を感じた。なんというのか、苦労の生活と言うのが上手く表現されていて、その中で特に夜の映像は逸品で、なんとも言えない雰囲気で、日本には無い雰囲気だろう。クラブ(?)の映像も迫力があり、やはり「きちんとした映画」なのだなぁと関心させられた。どこかの、上戸なんとかっていう女が出ている時代劇とは違い、マジな映画として完成している点はかなり好感が持てる。

ただ何度も言うように、問題は終わり方にある。そこまで順調に来ていたし、あの歩いて仕事に戻るシーンでエンドクレジットに切り替わる事自体はそれでいいのだ。だが、その後の彼が分からない限り、彼が「チャンスを掴んで夢を実現した」のかどうかが曖昧に終わる。恐らく、この映画のテーマから考えると大きなマイナスだろう。

そう考えたら、全体的に見ても「あらゆる瞬間にチャンスがある」っていうのじゃなくて、「目の前のデカイ事を成功させりゃ次が来るかもしれないじゃないか!」って言うお話に見えてくるなぁ・・・。まぁ「やればできる。やらなきゃ勝敗すらつかない」って言う映画なのだろうけどね、本当は。

まとめ。

全体的に硬派で手堅い演出(格好つけずにやってる辺りに好感が持てる)で分かりやすいサクセスムービーではあるのだが、多少途中からテーマが曖昧になっており、ラストは中途半端というか、語り不足。結果、消化不良を起こす。映像(特に夜の雰囲気)、音楽などは良い。総合的に観て、映画としては良い出来ではあるが、何かひっかかる。突き出た物が無いと言うか、なんというのか・・・。

結局、’バトル’で勝つまでの苦悩などを描いているだけで、彼がラップを歌いだした理由等、描くべき事を省きすぎの気もする。そういう点から、どうもメッセージを描ききれて居ない映画に見えてくる。

けど、自分の周りの奴らがひたすら理想論と言うか、「夢ばかり見てバカ騒ぎしている中で、将来を真剣に考えているのは自分だけ」と言う主人公の気持ちの閉鎖感はよく分かる。つまり、呑気な野郎仲間の中で一人で悲観的になって苦悩する姿はなんか自分と被って、かなり感情移入できました。だからラスト、’バトル’で歌えた時の彼はマジに輝いてたんじゃないかな?でも、やぱ映画としては並かな。

なんか今回はやけに長いなぁ・・・同じ事繰り返してばっかりのレビューだ(^^;

(評価:★3)

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