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[コメント] 下妻物語(2004/日)

これに5点をつけられないのは、青春真っ盛りでもなければ、青春を懐かしむ年齢でもないからかも知れない。青春時代が〜、夢なんて〜♪
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







公開当時は、「どうせつまらないアイドル映画だろう。」と想像していたのだが、意外にも玄人からも評判がよい。これはビデオを観てみた方がよいかなあ、と思っている内にテレビ放映された。そして「これは映画館で観るべきだった。」と激しく後悔した。強烈なキャラクター、アニメーション、合成、歌、カメラ目線になって観客に語りかける登場人物……大胆な演出を次々に見せて、一気に突っ走る。これは凄い。録画したのを繰り返し見てしまった。

ただ、そこに描かれている青春ドラマに今ひとつのめり込めなかったのも事実。それはたぶん私が青春真っ盛りでもなければ、青春を懐かしむ年齢でもないからだろう。

「森田公一とトップギャラン」の「青春時代」に歌われているとおり、青春時代を思い返して、あの頃はよかったなあ、などと言うのは、大人になってからである。青春真っ盛りは、苦い思いの連続なのだ。

人は中学、高校生の頃に思春期を迎える。それは子供から大人へと変わる途中過程である。社会の今まで知らなかった側面が見え始める。その中で自分の生き方を探す。自分探しに迷い、友達関係で悩み。流行と自分らしさの間で苦しむ。

「下妻物語」で描かれているのは、そうした青春のドラマだ。ひらひらのお洋服に身を包んだ深田恭子も、一見時代錯誤な暴走族の土屋アンナも、コメディのためのキャラクターであるが、青春ドラマの一つのテーマである「自分らしい生き方」を絵的に表している。桃子はクラスメイトからどう思われようが、ロリータ街道をまっしぐらの生き方を曲げないし、イチコは、それまでの自分が嫌で、高校生で暴走族に転身した。

ただし、そのドラマは作り物であり、非常にあっさりしている。

青春の悩みは、河原で一晩泣いたら片づくようなものじゃない。(あの河原の風景は好きだ。草がぼうぼうに生い茂っていて、それに埋もれるように小さな水門がある。故郷に帰ったような懐かしさを覚える風景だ)

社長さんは、仕事より友達を優先しなさい、などと理解を示してはくれない。いや、礼儀として言ってはくれるだろう。だが、二度と仕事には誘われない。スカウトを断ってもなお誘いがあるとしたら、それは自分がかなりの実力者であった場合であり、そんな抜きん出た才能を持った人は滅多にいない。

土屋アンナの中学時代も、コンパクトかつコミカルにまとめられているが、トイレで水をぶっかけられたら、その後もトイレに行くだけで嫌な気分になるくらいトラウマになる。

青春の悩みだけではない。本物の苦難というものは、そんなに簡単に解決するものではない。解決方法が見付からないまま、むなしく時間だけが過ぎる。そうしているうちに、新しい生活が始まり、すべてが過去になる。関係者もいなくなり、悩みの種も消え、それでもなお、何年もトラウマを引きずる。それくらい辛いのだ。一晩泣いたら気持ちも晴れて、「大切なことを学んだ。」なんて言えるような悩みは、まだまだ生やさしいと言っていい。

もちろんこの映画のような軽いタッチのドラマも必要なのだろう。現実にある悩みを直視するようなドラマばかり見ていたって憂鬱になるばかりだ。

いつか私もこの映画が楽しめるときがくるのだろうか。今の私が青春時代の悩みを投影するのは『タクシードライバー』である。うわ、暗い話だ。(トラヴィスは青春時代の年齢ではないけどな)

(付記)●『アメリ』のような加工された映像は最初鼻についたが、意外と早く慣れた。それにしても加工されすぎて、ところどころ「リアプロジェンクションで背景を合成したの?」と思える場面すらある。似たような背景で別のアングルから取られたカットがあり、必ずしも手前に人、奥に背景となっていないことを考えると、違うと思うのだが。『キル・ビル』みたいにリアプロジェンクションにこだわったのなら拍手ものだが。

●私がこの映画で一番気に入ったのは、深田恭子でも土屋アンナでもなく、篠原涼子であった。女優の真価はコメディでわかるものかもしれない。

●プロローグで深田恭子が軽トラと衝突した時点では、何があったのかわからないが、土屋アンナとのドラマを見てからだと、こぼれるパチンコ玉が深田恭子の涙に見えた。真珠のようにきれいだった。真珠と違うの涙は、ハッハ〜♪

(評価:★4)

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