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[コメント] ソーシャル・ネットワーク(2010/米)

「もしも『ファイトクラブ』の監督が、NHKの『プロジェクトX』を監督したら」
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







を想像してしまった。

ファイトクラブ』はもともとチャック・パラニュークによる原作小説が妙なリズムのある文体で、急な場面転換の連続だったわけだが、さすがは、デイビッド・フィンチャー、その原作の面白さを活かしながら、CG、サブリミナル映像、観客に向かって語りかける登場人物と、自分流に調理した人なだけある。本作も、猛スピードで畳みかけるように次から次への場面転換。田口トモロヲが、「これは……世界をネットワークでつなぐことに、全力を注いだ男たちの物語である」と戦場カメラマン並みのゆっくりなナレーションで語るような映画にはしない。実在の人物を主人公としながら、英雄として讃えるのとも違う、観客が感情移入しにくい人格を全面に出して描く、何とも一癖ある映画である。

「この時、僕は気付いた。フェイスブック、会社、訴訟、これらはすべてエリカという女に起因している」「僕たちが創ったネットワークだろ?!」「お前は勘違いをしている。フェイスブックはもともと誰のものでもない。したがって俺たちのものでもない」「フェイスブックのルールその1、フェイスブックのことは誰にも喋るな」……って、それじゃ、SNSにならないな。

デイビッド・フィンチャーは好きな監督なんだが、『ゾディアック』を見た時には、戸惑った。『セブン』ほど不気味でもない。『ファイトクラブ』ほど、暴力的な感性を呼び覚ませてくれるわけでもない。主人公が次から次に降りかかって来るピンチを乗り越えていくわけでもない。連続殺人探しに躍起になる主人公を、「大丈夫か、こいつ?」と一歩退いたところから見てしまうような映画だった。

今回この『ソーシャル・ネットワーク』を見て、やっと、『ゾディアック』でフィンチャーが描こうとしていたことがわかった気がした。彼は、観客に別の人生を疑似体験させようとしていたのだ。いや、どんな映画だってそうなんだろうが、彼の映画は、他とはちょっと違うのだ。次々と降りかかるピンチを乗り越え、財宝や栄誉を手に入れる冒険映画でもなければ、次々と襲いかかる敵をバッタバッタと倒していくヒーロー映画でもない。しかし、取り憑かれたように連続殺人犯探しに何年も力を注ぐ人生、SNSの開発とそれを巡るトラブルに時間を割く人生を、そしてタイラー・ダーデンやマーク・ザッカーバーグという風変わりな性格による生き方を、たったの2時間に圧縮して疑似体験させてくれる。社会派である必要はない。そこには銃撃戦も殺陣もカーチェイスもないが、間違いなく新鮮な体験だ。

「自己啓発本やノウハウ本は、新しい知識や技法を身に付けられるから売れるのではない。“これを身に付ければ、自分はこんなふうに成功できるはずだ”と成功を疑似体験・妄想できるから売れるのだ。」という主張を読んで、なるほどと思ったことがある。「プロジェクトX」も他人の成功を参考にするためというよりは、仕事疲れの清涼剤に、他人の成功を疑似体験するため、視聴されていた気がする。そう考えると、『ソーシャル・ネットワーク』はハイテンポの「プロジェクトX」と言えるだろう。

ところで、ラストなんだが、本当にマークはエリカに振り向いてほしくて、フェイスブックを創ったのだろうか?いや、僕も最初はそう思ったし、今だってその可能性は捨て切れていない。しかし、彼は本当にそういう普通の感性の持ち主なのか?すべてが終わった今、ただ単に昔のことを思い出していただけ、ということはないか?フェイスブック創設の動機とエリカとは、彼の中で結びついているのだろうか?……と、まあ、そんな捻くれた見方をしたくなるところが、デイビッド・フィンチャーの映画の魅力でもある。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)ハム[*] Orpheus

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