コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] シックス・センス(1999/米)

断言してしまおう。この映画は画期的だ。これは映画史上に残る価値がある。
空イグアナ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







推理小説が好きな僕には、この映画の価値は、「驚いた」かどうかや、「予想がついた」かどうかだけでは語れない。この映画は画期的だ。推理小説で言う叙述トリックを映画に持ち込んだからである。

ここで推理小説を知らない人のために、叙述トリックというものを詳しく説明します。知っている人には退屈でしょうが、ちょっとばかり我慢を。

叙述トリックとは手短に言えば、「作中の犯人が仕掛けるのではなく、作者が直接読者を騙す、それも嘘をつかずに騙すトリック」です。具体的には、例えば、男だと思っていた登場人物が女だったというオチがある。変装をしていた、という意味ではない。物語の登場人物はみんなその人が女だと知っている。小説では顔が見えないことを利用して、作者が読者を勘違いに導くわけです。まさお、とかいう名前だったら男でも女でも通用するし、言葉づかいも「です・ます調」でごまかすことができる。インチキだ、と思うかもしれませんが、推理小説ではトリックの一分野として、すでに当たり前になっているテクニックです。

これが叙述トリックです。この説明を読めば分かるとおり、これは、文章だからこそできるものであり、映像では不可能と言われていました。「でも、映像の意味を勘違いさせることならできるんじゃないかな?男っぽい女の人を登場させることはできるだろうし。」僕はそう思ったことがある。(正確には、全然男っぽくない女の人でも、男に見せかけられるから、叙述トリックは面白いのだが、もっと映画でこういうトリックが出てきても、いいんじゃないだろうか?)そして、それを実現してくれたのが『シックス・センス』だった。

例えば、ブルース・ウィリスオスメント君の母親と向かい合って座っているシーン。ここで観客は騙されるわけだが、意地の悪い言い方をすれば、これは観客が勝手に勘違いしたのである。ブルース・ウィリス以外の登場人物は、みんな状況を正しく理解しているし、監督は「私は、嘘はついていません。生きた人間と幽霊が、一緒にいるところを、そのまま映像にしただけです。母親はブルース・ウィリスと会話をしていたなどと、誰が言いましたか?」と言い訳できる(詐欺師の手口みたい?そう、それこそが叙述トリックなのです)。

注意してほしいのは、幽霊だということを、ただ隠しているだけの映画だったなら、ここまで絶賛はしなかったということだ。オスメント君と一緒にいるだけでは、叙述トリックにはならない。今までのどんでん返しと同じだ(そういえば、主人公が実はアンドロイドであることを暗示して終わる映画があった。もし「シックス・センス」が叙述トリックでなかったら、あのラストを超えた感動など得られなかっただろう)。母親と座っていたり、奥さんに話しかけたり、(オスメント君以外の)生きた人間の絡みがあるから面白いのだ。オチをただ隠しておくだけでなく、それを前面に押し出して、巧みに観客を騙している。小説が言葉を巧みに利用して勘違いに導くのなら、この映画は映像を巧みに利用している。それがこの映画の画期的なところだ。(その点で、某二番煎じ映画よりも、こちらのほうが上だ)

もっと言うと、僕は、友人の会話を耳にしてしまい、オチは最初から知ってしまっていた。それでも僕は胸をわくわくさせながら観たのだ。もしや、叙述トリックを映画に持ち込んだのでは、と期待しながら。 そして映画が始まると……やってくれたぜシャマラン監督!先にオチを知っていても大絶賛だ。

厳密には、映画で叙述トリックが使われるのは、これが初めてではない。『羊たちの沈黙』でもささやかながら使われている。ただし、この映画ほど大々的に使ったものは初めてであり、やはり賞賛されるべきだろう。(*補則。他にもあったのを思い出しました。『身代金』。これもささやかながら使われてます)

大々的に使ったというだけではない。本編の叙述トリックは、映画だからこそ面白い。「映画では不可能だ。」と言われていたはずの叙述トリックが、だ。ビデオを見直しながら「本来ここには、彼は映っていないんだな。」と、映像を頭の中で変換する。ノベライズを読んだが、やはりこの面白さは小説では味わえない。

この映画は本当に画期的なのだ。

  ********** 長〜い、おまけ *********

さて、一番言いたかったことは、ここまでで言っている。これで終われば、長文レビューとしてもまだ、まとまった物になるのだろうが、この映画は語っても語り尽くせない。気力のある人だけで結構ですので、もうちょっとだけ付き合ってください。

まずは不満から。この映画には、「僕ならこうするぞ。」という点もたくさんある。それらのために5点をつけられずにいる。大きく分けると *1。トリックがバレバレという部分。(すでに多くの人が言っているように、トリックがある、なんて宣伝はすべきではなかったと思う。そして本編を見ても作り方がうまくない。) *2。僕ならこういう伏線をはっておくのになあ。 *3。ブルース・ウィリスは気付いていた、ということにしてほしい。(気付かないのはおかしい、というのではなく、そのほうが騙されたという感じがする。それでこそ「叙述トリック」だと思う)の3つである。長くなるので箇条書きにしよう。

*1の1:冒頭でブルース・ウィリスが撃たれるシーン/ 早ければここで予想がつく。だから、ラストの「大丈夫だ。」という会話は、冒頭に持ってくる。さらに相手が自殺しようとするのを見て、「やめろ!」と叫ぶ。しゃべる元気を見せることで、致命傷ではないと思わせる。

*1の2:レストランで奥さんに話しかけるシーン/ 奥さんが後ろ姿だから違和感がある(この女の人、誰?と思ったほど)。ここは、最初から奥さんを正面から映し、ブルース・ウィリスが店に入ってくると同時に、奥さんが(偶然)彼の方を不機嫌そうにひと睨みする。

*2の1:(この映画の特徴的な演出である)白い息/ 僕ならオスメント君とブルース・ウィリスを同じ画面におさめ、オスメント君にだけ白い息を吐かせる(某SFホラーのラストみたいに)。いかにも生きている人間と幽霊の違いという感じがするではないか。(ビデオを最初から最後まで見直したが、そんなシーンは見付からなかった)

*2の2:二人が、母親に殺された少女の部屋に入っていくシーン/ ドアノブがアップになり、オスメント君の顔が映っているが、よく見ると、隣りにブルース・ウィリスも映っている。僕なら、幽霊は鏡に映さないぞ。

*2の3:ラストで映った、シャツのお腹の弾丸が抜けた穴も、それまでは見あたらない。最初から空けておくべき(というより、お腹にも血がついていないとおかしいか)。

*3は、そうすると、「僕には死んだ人間が見えるんだ。」という告白や、それを幻覚や妄想だと思うシーン、ラストの驚愕の表情などは無くさなくてはならない。惜しいことだが。特に、あの驚愕の演技は好きだし、自分が幽霊だと気付くことは、自分の存在を否定されるようなもので、それ自体ドラマになるのだが……。

もう一つ不満がありますが、それは次の項で。

        *        *        *

前にレビューで、ブルース・ウィリスが気付かないはずがない、矛盾だらけだ、と書いたところ、ALOHAさんがレビューで、気付かない理由を説明してくれました。しかし実を言うと、僕は、説明されなくても、そう思っていたのです(下手な言い訳と思われるでしょうが、本当のことです。元オカルト信者の僕は「自分では死んでいるとは気付いていない霊」の話も聞いたことがあるし、どうして気付かないのかも真剣に考えていたことがあります。……小学生のときの話ですが)。「夢の中では、どれだけストーリーが支離滅裂でも夢だと気付かない。それと同じようなものだろう。」と解釈していたのです。「矛盾だらけ。」と書いたのは、映画にはそれらしい説明が無いと思ったからです。(紛らわしい書き方をしてすみません)

また、ドアの前に置かれていた棚。あれが見えなかったというのは、トリックとして反則だと思う。ドアをがたがた揺するシーンで、監督は嘘の映像を映したことになるからだ。謎を解く手掛かりは、すべて読者に提示しておく、また、嘘はいけない、というのが推理小説のルールである(これをフェアプレイと言います)。面倒だが、それがあるからこそトリックが面白くなる。例の、女の人を男に見せかけるトリックだって、「この人は男です。」とは一言も書かないから面白いのだ。

しかし、何はともあれ、ALOHAさんのわかりやすい説明には感謝します。「見たい物しか見えない。」という台詞はずっと「何のことだ?」と疑問でしたし(逆に言うと、元オカルト信者の僕でも意味わからなかったのだから、それだけこの映画はわかりにくいと言えます)、ドアの棚の話も初めて知りました(僕は、ブルース・ウィリスが死んだので、奥さんが彼の部屋に鍵を掛けてしまい、最後にはポルターガイスト《=ブルース・ウィリスがドアを揺する》防止に棚を置いたのかと思っていた)ALOHAさん、ありがとうございます。

        *        *        *

さて、長いレビューになった。くどいだろうが、確認のために繰り返しておこう。この映画はの価値は「叙述トリック」にある。小説でしか不可能、といわれていた技を映画に持ち込んだ画期的な映画なのだ。これは映画史上に残る価値がある。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (25 人)G31[*] Orpheus ミドリ公園[*] fedelio IN4MATION まゆ poNchi[*] ナム太郎[*] Pino☆[*] ジョー・チップ Myurakz[*] ダリア[*] フランチェスコ[*] torinoshield[*] シーチキン[*] あき♪[*] ドド トシ ピロちゃんきゅ〜[*] アルシュ[*] ぱーこ[*] ペンクロフ[*] くたー[*] 甘崎庵[*] さいた[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。