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[コメント] モンパルナスの灯(1958/仏)

苦悩
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







描かれた画家、モジリアニを善と捉えるか悪と捉えるかと言えば、悪.飲んだくれで、女に暴力を振るう. 唯一、彼に正しいものを見出すとすれば、お金のために画を描いているのではない.自分の画を商標に使われることは、許せなかった. 彼を最も正しく理解していたのは、作家らしい女.「あなたが、お金を払うのはおかしい」つまり、彼は全く生活能力がない、言い換えれば、お金のために画を描こうとしない、もう一度言い換えれば、売れる画を描こうとしない(お金のことを考えて画を描かない)、そこに、画家として正しいものがある.

彼の苦悩は、自分に生活能力のないこと、それを自分で知っている.作家らしい女の紐の生活、その生活から逃れよう逃れようとしながら、酒にひたり逃れられないでいた.友人の画家も、別れるように勧めていたようなのだけど. 妻となる女性との巡り会い、南仏は省略. 妻は、巴里で成功しなければ、と、彼に巴里に戻るよう勧めた.友人の画家も、なんとかして彼の画を売ろうと努力したのだけど. 貧困、幸せにすると約束した妻が、どん底の生活にあえぐ姿.彼は一枚5フランでスケッチを売り歩くけれど、全く売れない.本来、自分にそんな事が出来ないことを、彼自身が知っていたはず.売るために、売れる画を描いているのではないのだから、売り歩いても売れなくて当然なこと.

何が彼をそこまで追い込んだかと言えば、貧困.彼の画はもともと売れなくて当たり前、つまり、彼の画は、紐の生活でしか成り立たない世界にある. 人並みの幸せな生活と、彼の画は両立しない.そのどちらをも求めた、そこに間違いがある.私はこう思うのだけど.

映画の始まりのシーン.カフェで肖像画を描くけど、お客は気に入らない.これは、彼が悪いのでなければ、お客が悪いのでもない.画とはそういうものなのね.

ジャック・ベッケルの映画の話であり、画家モジリアニの話ではありません. が、実際のモジリアニにしても、幾年か前にこの映画を観た、それまでは、私は全く知らない画家でした.私は、彼の画を欲しいかと言えば、欲しくありません. 「少しは似せて描いてね」画を観て「許してあげる」、南仏での、ちんぴらの情婦、彼女は正しく、彼の画を理解している.彼女は画が欲しくて描いてもらった. 映画の冒頭にあるように、世界中の美術館が欲しがる画かもしれませんが、少なくとも私は欲しいとは思わない.有名な画家の画だから欲しい、私も、そう思わなくはないのだけど、でも、その考え方は、彼が死ぬのを待って画を買いあさる、あの画商の考え方と同じものなのでしょう.

(評価:★5)

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