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[コメント] 河(1951/米=仏=インド)

不満と満足
ルミちゃん

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







河に生まれ河に生き河に死ぬ.ガンジスの袂で幾年も変わることなく繰り返される、満たされた生活、満足のゆく営み.そうしたインドの風土に囲まれて育った三人の年頃の女の子の、その初恋.

ハリエットは大人になることへの不満.この子は恋愛はしたい.けれども結婚をして子供を産むより、ずっとこのままで、今のままの年頃で居たいといった感じ. バレリーは大人になりきれない自分への不満.実際の年齢よりも若く観られて嬉しかった反面、早く大人になりたい、大人の恋をしたい.だから積極的.

メラニーはインド人と西洋人の混血、と言うよりインド人の顔立ちで、きっとお母さん似なのね.幼い頃から仲の良いインド人の男性との交際をためらい、同時にジョン大尉に対しても、西洋人は分からないと評する.自分がインド人なのか西洋人なのか迷い悩んでいる.混血がどうのこうのというより、結婚を意識するような年頃になれば自分の誕生について考え、その結果、必然的に抱く意識なのでしょうか.

ボギーはコブラが好きで、捕まえようとしてかまれて死んでしまう.「真実の世界は子供たちのものだ」と、メラニーのお父さんは、グラスをじっと眺めてからジョン大尉に話すのだけど.簡単に言ってしまえば、子供なりに自分の好きな世界で、好きなことをやった結果の死であった.ボギーの死は子供ながらにも、人の死として満足の行く事だったと言っているのでしょう. 片足を失ったジョン大尉.この事にいくら悩んでみても、悩みながら旅を続けても、その悩みのなかには何も見つからない.この点はメラニーも同じで、自分の血筋を悩んでみてもどうすることもできないこと.メラニーはジョン大尉が「ぼくを嫌いかい」と聞いたとき、「嫌いなのは私自身よ」と答えるけれど、どうにもならないことで悩み続ける自分自身に対して、嫌いと言ったのね.

ボギーの死は自分の好きなことをやった結果であり、満足の行くもの.に対して、自分自身に不満を抱きながら生きる、ジョン大尉とメラニー.ボギーの死後の二人の会話.ジョン大尉が「ボギー」と自問するように言うと、メラニーが「そうよ、ボギー」と答える.結果を恐れず一生懸命に好きなことをやって生きなければいけないのだと、二人共気が付いたのでしょう.(恋愛もその内の一つ) ジョン大尉は片足という現実を自分自身で受け入れることができない.この事を彼は自分自身に対する反抗と思っていた.(受け入れない、とは、拒む、反抗すると言うことになる)その点はメラニーも同じで、インド人の容姿の自分に西洋人の血が混じっていることを、素直に受け入れることができなくてサリーを着ている.と言うより、今までは西洋人の服装で西洋人の学校へ行ってきたのだから、これからはインド人の服装でインド人の生活をする、こんな意識だったのでしょう. 「私も反抗だと思ってきたけど、不平に過ぎなかった」メラニーはジョン大尉にこう言う.満たされない不満を抱くと、人は現実を受け入れようとしない.その結果が自分自身への反抗(他人への反抗)、あるいはメラニーの言葉を借りれば、自分で自分を好きになれないことになる.そうした不満から逃れるには、現実を直視して、現実を受け入れ、その上で自分の好きな生き方をすること、結婚で言えば、自分の好きな相手を見つけて一緒になればいい.

ハリエットは河で死のうとする.自分が父親に知らせに行けばボギーを死なせることがなかった.彼女はジョン大尉に夢中だった自分を好きになれない、耐えられない想いから死のうとした.(この気持ちは、家の前でじっと佇んでいたカヌーも同じだったでしょう) でも、そのジョン大尉から慰められて、やっぱり自分は彼を好きなんだと自覚するとき、生きる元気を取り戻して行ったのね.

ラストシーンを先に書けば、このお父さん、女ばかりの家族で男の子を切望していた.生まれたのが女の子と聞いて一瞬がっかりしたのだけれど、すぐに皆で顔を見合わせて笑顔.不満に思うか満足するかは、ほんの僅かの心の持ち方で決まるみたい. 自身でどうすることもできない事で悩むより、おかれた境遇の中で楽しく生きることが大切.自分自身を受け入れるとは自分で自分を好きになることであり、同時に誰かを好きになる事でもあるはず.

ハリエット、バレリー、この二人はジョン大尉とキスして満足.ジョン大尉からは好きな相手に巡り会った手紙が来た.メラニーもまた本当に好きな相手に巡り会えば、自分がインド人なのか西洋人なのか、その迷いは自然に消えて行くことなのでしょう.(ジョン大尉を理解する、メラニーなりに好きになる時、消えていったと言って良いのでしょうか)

ジョン大尉と三人の年頃の女の子の恋愛、成熟できない恋愛なのだけど、淡い想いのままに終わる彼女たちの初恋は、好きな相手と巡り会うこと、そこに幸せの原点があると告げている.

(評価:★5)

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