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[コメント] タワーリング・インフェルノ(1974/米)

一片の容赦もない映画。
NAMIhichi

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この映画は小さい頃にテレビで観たおぼえがあるが、細かい部分はほとんど忘れてしまっていた。高いビルで火事が起き、人々が大変な思いをして助かるという、とにかくやたらと大変な映画だという印象が残っていた。再見して驚いた。とにかく人がどんどん死んでゆく。

たとえば上司と秘書の二人。ひそかに会社に残っていて助けを求めるすべもなく、男性は焼死し、女性はビルから落ちて死んでゆく。私はこの二人は別ルートで逃げ、最後の方でみんなと合流して助かるパターンだと思ったので、あっけなく死んだことにまず驚いた。火事に気づく前に、二人が愛情を確かめ合う会話があるので、何て無情なと思う。あまりにもあっけない。しかし、何の罪もないこの男女がここで死ぬことによって、観ている方はこの火事に対して確かな恐怖をおぼえる。

次に、ジェニファー・ジョーンズ演じるミュラーという女性。前半、ポール・ニューマンと幼い兄妹と共に火の手から逃げ、真っ白なドレスを着ていることも手伝って、非常に印象に残る役柄だ。実際、私はこの映画がとにかく大変だということと、この白いドレスの女性を特に記憶していた。だから、まさか途中で死ぬとは思わなかったのだ。今の映画だったらこの女性は絶対に死なないポジションにいるのではないだろうか。パーティに一緒に参加していた男性との間に愛情がめばえ、これから新しい二人の未来が開けると思わせておいて、かなり派手な死に方をさせる。嫌な予感はしていたが、この辺から容赦のない映画だと感じ始めた。

そして、最後、屋上の下の貯水タンクを爆破させ、水が流れて鎮火するシーンだが、ここでもまだ多くの人が死ぬ。私は最後に残された唯一の手段でそこにいる全員が助かるという映画を観すぎたのかもしれない。あるいは、この火事では200人もの犠牲者が出るという設定なので、人が死ぬシーンが多いのは当然だろう。しかし、意外だったのは死ぬのが悪人だけではないという点にある。それを私は忘れていた。近年の映画では、ちょっといい奴はだいたい生き残ることになっているのでそれに慣れてしまっていたようだ。

鎮火した後、先に救出されているはずのミュラーを探す男性の姿がある。観ているこちらも悲痛なのだが、かわりに彼女が飼っていた猫を託されるのを見て、この火事で失ったものの大きさというものが伝わってくる。もう一人、この映画に出てくる唯一の悪人、オーナーの婿の遺体を見て、涙を流す妻の姿がうつされる。これも、死ぬのは悪い奴だけで、死に方のみを派手に描写して終わり、という映画では見られないシーンだ。助かった人々が抱き合って喜ぶ姿で終わる映画ではない。自分の記憶力のなさにも驚いたが、どういう人間でも死ぬというところに、ちょっとしたホラー映画よりも怖い思いをした。

長くなってしまったが、犠牲者を描く際の容赦のなさ、少しも手加減しない姿勢、こうした点がこの映画を傑作にしているのではないかと感じた。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)tredair はしぼそがらす[*] 荒馬大介 けにろん[*] Myurakz[*] HILO[*]

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