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[コメント] トニー滝谷(2005/日)

小説としての『トニー滝谷』は、やはり村上春樹の書いたものが全てなのだが、映画としてのそれは、市川準が作り上げたこの作品でよかったと思えるものになっているところが凄い。市川準にとっても最高傑作だろう。
ナム太郎

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







例えば小説としての『トニー滝谷』は、中古レコードを売り払うところがラストだ。そして小説としての『トニー滝谷』の終わり方は、どう考えてもそれ以外には考えられないし、それ以外ではダメだと思うのだが、かたや映画としてのそれは、トニー滝谷とサイトウヒサコとの再会を匂わせながら終わる。そして映画としてのそれは、その終わり方でよかったと思える素敵なラストであるところが嬉しかった。

また小説に出てくるサイトウヒサコは(実は小説にはそういう固有名詞は出てこない。単なる「彼女」である)「飾り気のない白いブラウス」に「ブルーのタイト・スカート」を着るような「これといって特徴のない顔をした二十代半ばの女」であるのだが、映画では妻役を演じた宮沢りえが、どう見ても瓜二つの女性を2役で演じている。そしてその配役は、ラストのあのようなエンディングを効果的に演出するためには必要不可欠であったと思う(配役の妙だけではない。あの車を洗う宮沢りえのチャーミングなことといったら!)。

市川準という人の文章を映像化する能力は本当に素晴らしいものがあると思う。これまでも数々の原作モノの佳作を撮ってきた彼だが、今回のこの仕事には本当に恐れ入った。これからも幾つかの村上春樹作品が映画化されることになるだろうが、この作品は何年経ってもそのマスターピースとして輝き続けることだろう。

最後に、イッセー尾形に関しては、「そうか、この人がいたんだ!」と目からウロコ状態。もちろん、独り芝居で鍛えたその演技力も素晴らしいものがあった。素直に「参りました」と言っておきたいと思う。

(「」部分は文春文庫刊、村上春樹作『レキシントンの幽霊』中の『トニー滝谷』より引用しました)

(評価:★5)

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