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[コメント] お早よう(1959/日)

憎めない「おなら映画」に I LOVE YOU!
ナム太郎

この映画を観た人が持つ決定的なイメージとしてまず「おならの映画」であることが挙げられるが、この「おなら」が単なるギャグで終わっているのではなく、竹田法一演じる父親が「おなら名人」として子どもたちからいたく尊敬される様がしっかりと描かれている(彼の「おなら」で高橋とよが「何か用?」と聞きにくるシーンは最高に楽しいし、体操に合わせて絶妙タイミングで放つ「おなら」はまさに名人級である)など、「おなら」自体が子どもと大人の狭間を取り除く有効なファクターとしても用いられ、また機能しているところが非常に興味深い。

実際のところ子どもというものは(それは現代の子どもであっても)そういうユーモラスな(憎めない)大人には自分から心開いていくものだが、そのような普遍的な子ども心をうまく描写しながら、結局は子どもの要求に応えてしまわざるを得なくなる笠智衆演じる堅物な父親との対比となっているところなどはさすがに小津だと唸ってしまう。

またその当時の新しい生活スタイルであろうところの建売住宅に住んでいる人たちが、古くからの長屋的な機能によって結局昔と変わらぬ住みにくさを感じているという描写も、現代に通じるところがあって面白い。

さらにそういったお隣さんとの行き来を、玄関あるいは勝手口というものを駆使しながら何度となく見せているにも関わらず、それを飽きさせぬどころかむしろそのシーンになると「次はどんな見せ方をしてくれるのだろう」という楽しみに変えてしまう小津の演出。これもまさに見事としか言いようがない。

あとこれはなかなか同意してくれる人がいないかもしれないが、例えばスカートを穿いた沢村貞子などができるだけ足を見せないようにと分厚い靴下を履いているのに対し、久我美子がその素晴らしく美しい足を惜しげもなく見せているところはそれだけでも★を増やしたくなるほどだし、足元と言えば笠智衆の「洋装に足袋」という服装を見ているだけでも楽しくなってしまう。

このようにこの映画は、大筋は特に何てことはない小品であるのだが、あらゆる面で憎めない楽しさを見出すことができる秀作である。そんな本作の鑑賞後、この映画に対して発する賞賛の言葉はもちろん「I LOVE YOU!」。これしかないだろう。

(評価:★5)

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