手法としてはありふれたものではあるのだが、私達観客は気づいている（見えている）のに登場人物は気づいていない（見えていない）ことがうかがえるショットや、あるいは逆に登場人物が何らかの気配を感じているらしいのに私達には見えないというショットの使い方が非常に巧妙で、もちろん怖いことは怖いのだけれども、そういった演出の面白さをも味わえて楽しくて仕方がないといういつも通りの黒沢清作品であった（もちろん褒め言葉）。

「水」への挑戦も見事に結果を出していて良かったと思う。特に地響きとともに見せる水面の揺れや捕獲ダイブの残像は今も強く残っているし、また残像といえば飛び降りや衝突、鈍器を使った殴打等々の画や音も、しっかりと目や耳に残るものがあった。あとはあの古びた建物の造型などもたまらなく好きだった。

役者ではチョイ役だが奥貫薫が印象に残ったのだけれど、彼女と役所広司との対面シーンで、本当に２人だけだとやや重い画になりそうなところに出てくる椅子。個人的にはあの椅子にも敢闘賞をあげたい。