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[コメント] ぐるりのこと。(2008/日)

「ぐるり」のこと。
ナム太郎

「ぐるり」とは周囲とか、身の周りとか、平たく言うと自分の手の届く範囲のことを言うのだと思うのだが、小さな意味での私たちの生活基盤は、まさにその「ぐるり」の中であり、その中で私たちは自分というものの本当にちっぽけな価値判断の中に生きていると言ってもいいのではないかと思う。そういう意味では社会なんてものも個々の「ぐるり」の集まりであり、個々のちっぽけな価値判断の集まりでもあるわけだから、たまたまそこに自分と同じ価値判断を見出せればよいけれども、そういったものを全く見出せないことだって多々あるわけである。

いや、むしろそういったものを見出せない場合のほうが圧倒的に多いというのが現実というものだろう。しかし、そういったことは理屈としては分かっているつもりでも、自分の「ぐるり」において自分とは全く違う価値判断を叩きつけられると、そのときは思いのほか動揺し、悩み、苦しんでしまう。そういったときに自分という者を本当に理解し、温かく包んでくれる人が自分の「ぐるり」にはいてくれるだろうか…。自らが同性愛者でもある橋口亮輔は、そんな「ぐるり」のことを、決して離れることはないであろう1組の夫婦を柱にまさにあの天井画のごとく、瑞々しく、鮮やかに、そして清らかに問いかける。

観始めてまず驚かされるのは、その提示される画、そして演出スタイルの懐かしさである。まさにその舞台である90年代の日本映画の香り、演出がそこにはあった。近年の日本映画のやたらと整い過ぎた面白味に欠ける画に慣れさせられていた私にはその香りからしてすでに嬉しい誤算だった。加えて橋口ならではの長廻しの楽しさ。また、素とも演技とも判断つかない木村多江の姿を、これはまさに素としか言いようがないリリー・フランキーが支えるそのキャスティングの素晴らしさもこの映画の肝であろう。

社会的事件と映画との関わりがうまくないとの指摘をもっともだと思わなくもないが、芸達者たちの特別出演の楽しさが全てを救う。そんなことより自分にとっての最大の問題点は、せっかくのヌードシーンがリリーばかりであるというところ。ただこればかりは橋口の映画だから致しかたのないことと思うしかないか。

(評価:★5)

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